心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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2013-07-24 23:09:47 

 

そんなこと書いたから

最後の野球は、文字だった。

ピッチャーが投げたボールに球種が書いてあるかのごとく

打席に立ちながら、状況や心情が、文字になって迫ってきた。

 

今までもけっこうそういうことがあって

小学校の初打席は

「あー今ここで打席に立っているのは、自分なんだ。

どこで生まれ、どこで育って、小4で野球を始めて…」

なんてのがぐるぐるして、今にしてみれば、あれが走馬灯だったのだ、と。

 

(打者は)お前だ!

っていう怖い話の大オチみたく指差されている感覚で、迎えた1打席目

マウンドには今もサークルで野球を続けてるんだろうイカした右サイドスロー

普段は野手だけどこういう授業ではピッチャーで目立ってやろう野郎に、僕は密かに闘志を燃やす。

 

しかしそいつキレッキレ。

アウトコースの直球とスライダーの出し入れが、

たかが授業レベルだから、なのだけれど、

カンペキ。

ストライクの直球見逃して、ボールになるスライダーに手を出して、かと思えば初球スローカーブで簡単にカウントを取る。

僕はじゃんけんで12番打者だったんだけど、それまで6奪三振くらい上々。

そんな1打席目。

 

授業野球は時間短縮のためカウント1-1から始まる。

初球、約110キロの直球が外角に決まる。

ほほーと思わず唸らされるキレイな回転。キャッチャーに目をやると、どうよと言わんばかり。

カウント1-2(ちゃんとBSOでカウントするよ。)

追い込まれた僕は三振のリスクを考える。

恐らく勝負は外スラ。真っ直ぐの速さから言ってインコースに来ても振り遅れることはない。カーブがちょっとやだな、カットできるかな久々だけど。

ボール球に釣られない程度に、アウトコースをセカンドの頭上にかまそう、と決める。

 

2球目、読み通り真ん中低めスライダー。

若干ボール気味でも振ったバットは止まらない、

なんとかこすらせファール。

キャッチャーゴロ寸前、猛アピールが実った。

一度バットを振ると緊張がほぐれるもんで、これで少しラクになる。

 

3球目もスライダーが外へ。

予想って大事だな、とつくづく思う。外れてボール。

見送る姿勢1つでも、相手にプレッシャーをかけられる。

できなくても、できます雰囲気を出すことで相手バッテリーの配球が難しくなる。

 

4球目もスライダー、さっきより大きく外れてこれでカウント3-2

これで、完全に互角。

スライダーが続けて外れたので、真っ直ぐしかないと踏む。

 

5球目

面白いくらい予想通り真っ直ぐ。これでも元ピッチャー、読めた。

サイドスローのシュート回転がインコースに入ってくる。

「避けずに当たらんか」って中学の指導者のゲキが、体に染み付いてるのには、怖くなるけど

インコースを避けずに体を巻きながら袖をかすめてデッドボール。

3-2なら避けてもいいのに、と思いながらもこの勝負、僕の勝ち。

1塁ベース上でほくそ笑んだ。

サークルで野球をやっているチャラ男には負けたくない。

入学以来の夢を1つ叶えた。

 

しかし、すぐ、さっきの真剣勝負は無意味だったと知る。

僕が必死で繋いだ次の打者は、

バットを持つこともままならない、女の子で

彼女2球で三振に倒れた。

 

 

その後はショートゴロとレフト前

通算11-6(.545)で授業の野球人生を、

終えた。