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心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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2013-11-16 23:40:51 

 

大きな声じゃ言えないけど、

変なバイトをしたことがある。

業務自体は特別変なことしてないんだけど、どうも現実とは思えない。

先輩に誘われて知ったバイトで、曰く「時給は数十万」

人によってその「時給」は変わるらしく、出来高なのかと僕は精を出すことに決める。

 

集合場所には、同じような大学生くらいのやつがいっぱいいて、話すとみんな高時給目当てだった。

仲良くなれるかなとかよぎったけどどうもそうさせない空気があって、

その理由は、

ライバルだからっていうモットモなものから

仲良くならなくても我々同世代はどうせ自然と仲良くなるでしょ派もいた。

今にしてみれば、

他人は他人、自分は自分、でも同じ年代、支えあえたり競え合えたりできる。みたいなことか。

 

仕事は簡単、

集められた小学生に「あなたの将来の夢は何ですか?」と聞いてまわること。

目的もノルマも、そして時給も一切聞かされないままに働いた。

 

オシャベリ好きな僕にはうってつけで。

もちろん「いいえ、ナンにはなれません、人間だから。」と答えてきたやつには、口パクのFUCKをお見舞いしてやった。しっかり下唇を噛んで。

 

聞いていくうちに分かったことが、男子は小6、女子は小5がターニングポイントであり、

境に、夢が一気に現実的なものになるのだ。

野球選手は消え、女優は消え、

かと言って会社員や先生はまだそれほど多くなく、

ネットプログラマーや地方アイドルは、時代を感じさせた。

彼ら彼女らは、小学校高学年で一度、しっかり挫折をするのだ。

挫折した上で、キャラクターに合わせた夢を描き直す。

薬剤師と答えたメガネ君に「君ならなれるさ」と無責任に言ってしまったみたいに。

 

こんな状況、振り返ざるを得ない。

僕もあのとき、何か一つを諦めたのだろうか。

確かに小6の文集に「プロ野球選手」は書かなかった。

夢を描き直すことが、どれくらいショックだったか覚えていないことは、少し寂しい。

 

で、変なのが。

聞いた小学生一人一人が必ず「ではあなたの将来の夢は何ですか?」って聞き返してくることだ。

それもこっちが聞いたその台詞の、イントネーション、テンポ、間、まんま同じで。

救護室で泣いてるバイトの女の子がいて、でも気持ち悪くなった理由は少し分かる。感受性が豊かだったんだな。

 

答えないわけにもいかないし、

いかんせん先に質問したとき「だったらこういう勉強したら?」とか「そういう道もあるね」なんて少し上からアドバイスをしてしまったから

へらついてごまかすわけにもいかなかった。

それこそ最初のうちは「宇宙飛行士」だなんてほざいてはいたけど、どうにもおさまりが悪く。

気づけば、救護室には、人が少し増えていた。

 

どんどん聞いていく中、1人だけなんていうかセピアな、時代感の違う子どもがいた。

でも後ろ姿で分かるんだ。

その茶色のコーデュロイナイキのTシャツを、えらくお気に入りだったから。

それが、小6の僕だと。

 

振り返るとそいつ今よりボサボサの髪と、今より中性的な顔立ちで

そりゃ、同級生より、保護者から人気があったワケだ、なんてプチナルシシズムの納得。

 

当然仕事だから聞かないわけにはいかない。

「プライバシーのことがあるので個人的な質問等は絶対にしないでください。した瞬間射殺いたします。」っていうこの仕事の唯一のルールが重たい重たい。

返ってきた答えは(当然分かってた答えなんだけど)自分で言うのもなんだが、

すごくいい夢だった。

僕は少し泣いていた。少し泣きながら「君ならなれるさ」って言った。

 

一方、聞き返された僕は、

君(目の前の昔の僕)から僕までの歴史を振り返りながら、

才能、学歴、寿命、諸々混ぜ込んですごくリアルなことを言った。

夢は、変わった。

誰に何されたわけでもない最初の挫折を、乗り越えた僕が見つけた「いい夢」を、

僕は否定するでも肯定するでもなく、変えた。変えてしまったし、変えておいてあげた。

 

ただただずっと、目の前の自分を見ていた。

少し泣いていた僕は「君ならなれるさ」って言われてもっと泣いた。

 

 

時給は、数十万じゃくだらなかった。