心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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2013-11-22 23:14:45 

 

選択肢が増えるほど人は、「いつも」を選びたがる。

なんて言われたら、意地でも「特段」を選ぶ。

 

そんなささやかな反逆者は、

できることなら季節と真逆のことすら書きたいんだけど

いつか書きたいと思っていたことが日付と巡り合うたまたまを

悪くないかもねって、記しはじめてる。

 

 

aikoさんが誕生日なんだって。

ニワにわかだけど、御目出度いぜ。

ぼちぼち、いいだろう。

こないだライブに行ってきたこと、書こう。

 

 

2つ上、狂ったようにaikoのことを好きな先輩(しゃくれ)がいて、ライブ前日の夜中にお誘いのメールを頂く。

行ってみて、女性フアンの多さに驚かされたことから察するに、このしゃくれにはとんでも、女性の友人がおらんのだ。

僕は、ちょうど「おやaikoいいな~」っていう青い青い時期で、

生で拝見拝聴できる機会なんて、ぴったんこかんかん。

一緒に行く女の子のいない寂しい先の輩と、

aiko初心者の僕と。

 

僕は『くちびる』という曲がイチバン好きだ。

ネットでセトリをしっかり調べ『くちびる』という文字を見つけたときは、

思わずくちびるをつねった。痛かった。楽しみだった。

そもそも、人生初の武道館に身震いしていた。わたくし世に出て21年。ようやくの武道館デビューである。

それに僕は音楽に疎く、平井堅氏のライブに一度行ったことがあるだけだったから、

ずばり一流のライブに、心身の準備が分からなかった。

 

そんな僕の心を溶かした、というか、あ、うるせぇよって思わせたのは先輩からのメールだった。

当日夕方、満を辞して家を出た矢先、

 

「恋する準備できてる?」

 

とだけメールが来た。

そこでちょっと、いい意味で、冷めた。

 

当然すごいお客さん、女性の数に圧倒された。

待つ間、いろいろお話を伺う。視力がいいだとか、コール&レスポンスだとか、「始まったら俺はお前を気にしないからお前も俺を気にしてくれるな」とか。

 

ライブが始まる15秒前くらいからの、あのボルテージは誰の何の舞台でもライブでも最高だ。

aikoはすごくちっちゃかった。でも、本当にベタに、大きかった。

aiko が出てくると急に「AIKO-!!」と先輩が大文字で叫びだすもんだからそこでもいい意味で冷めた。

とにかくライブはよかった。

色々なアルバムから歌ってくれたみたいで、帰りに蔦屋さんに寄ったのは言うまでもない。

 

 

事件はアンコールの時に起こった。

先輩は、ライブ中もちょくちょく大文字の声援を飛ばし、会場の90%を占める女性の黄色い声援に調和させる気は一切なく、周りからすこぅし笑われていた。

aikoがはけ、アンコールを要求する観客の声援がまだぽつりぽつりの段階から

全力でAIKOAIKO!と1人コールを始める。

 

周りを気にしない先輩は、狂ったように力強い。

周りを気にしない先輩の真横にいる周りを気にする後輩は、布団に潜りたいくらい恥ずかしい。

「ちょ、やめたほうがいいんじゃないすか。みんな変な目で見てますって。やりすぎですって!」

小声で忠告しても一向に聞かない。

 

しかし、だ。

声を張り続ける先輩の勇ましさが、周りの観客の心を動かした。

みながみな、この男に続けとばかりに声を張り上げた。

途中には、

先輩「AIKO!」みんな「AIKO!」

先輩「AIKO!」みんな「AIKO!」

と1人対12999人のコール&レスポンス構図すらも出来上がった。

声ががらがら、息も絶え絶え、何て叫んでるんだか全く聞き取れなくなっても先輩は叫ぶのを止めなかった。

 

実に15分、休むことなく大衆を率いていた。

僕にはこのしゃくれ先輩がチェ・ゲバラに見えた。人々の心を動かし行動で導き革命を起こしたのだ。

この男がいなければaikoはもう二度とみんなの前に現れなかっただろう。

再び曲がなり始め、aikoが出てきたとき、みなが口々に言った「ありがとー!」は絶対先輩に向けられたものだ。

 

一方、当の本人はaikoが再登場したときに

「待ってたよー!」「待ちわびてたよー!」「心待ちにしてたよー!」

と言わなくてもいいことをひたすら連呼していた。

 

その後、ボソッと

aiko、はぁはぁ、好きだよ。」

とちっさく呟いた。

 

これだけ周りを引きつけておいて、

僕の真横のしゃくれたチェ・ゲバラは、信じられないくらいちっさい声で告った。

 

連れて行ってもらった御礼に、彼の愛がどこか着地できることを祈っている。