玄界灘の潮風に 鍛えし翼逞しく。
僕が何年生きようと多分、このカッコよさを超える歌い出しはないでしょう。
ホークスが日本一になった。
「人はオギャーと生まれて、最初に吸った空気を生涯、肺に残し、最後にそれを吐いて死ぬという。
だとしたら、自分の体には、生まれ故郷の空気がずっと宿っているのかもしれない。」って山田五郎氏のエッセイが言うのだから、きっと僕の肺胞にも少し、博多の空気があるのかもしれないハイホー。
「冒頭の歌い出し」って言うとこれ重複になるのでしょうか。
ガクセイ時代を博多で過ごした親父に思いを馳せる。
物心ついた頃、99年にホークスが初優勝したとき、うろ覚えなんだけどカラオケで親父が歌ってた。親父の師匠の、親父の次のお弟子さんであるみーちゃんのおじちゃんと一緒に。みーちゃんちは娘さんしかいないから少年の僕はよく可愛がられたし、僕が野球を始めたことを喜んでくれたのは親父よりみーちゃんのおじちゃんだったかもしれない。そこらへんのワケが、今なら分かる気がする。
いざゆけ無敵の若鷹軍団。
我らの、からの6文字はどうしても窮屈だったりするけれど愛着に溢れている。
我らの、世界一小さいオーナーへは感謝が溢れている。
4文字から6文字へ、受け継がれたオマツリ魂こそ「We Love Hawks」だと思う。
いざ、日本一!
王手で迎えた神宮は、今までも分かっちゃいたけど職場からものすごく近い。
僕の頭の中ではもうすでに3球くらい投げてそうなのに、ネットの1球速報はもどかしく。牽制球かよ。ファールかよ。えぇいあぁ君(球審)からもらい球。
8回裏、頭の中の野球の神さまがジャニーさん風に囁く。「you、行っちゃいなよ」
ド若手で人の目気にしぃな僕が、珍しく終わらない仕事を置いて駆け出した。
9階のオフィスから、球界の頂点へ。
疾風のごとく颯爽と、栄光を目指し羽ばたけよ。
走っている間、脳みそに流れるこの歌に、いつかの親父とみーちゃんのおじちゃんを重ねる。
日本一なんてそうそう見られるもんじゃない。
野球の神さまはあんな感じで結構厳しいんだ、万年補欠だった僕にはずっとわかる。
おじちゃん。おれ野球始めたんだけどなかなかレギュラー取れなかったや、ごめん。
いいよいいよ、っていつもみたいにご自慢のヒゲを当ててくれる気がする。
そんなことを考えながら、グラウンドを目指した。ナイターの明かりは目指すべきものとしていつも以上に輝いていた。
入れなかった。
ものすごく当然で、別にこの世は無常でなくて、言ったら僕の無常識。
チケットは売り切れ、どのゲートも入れず、
右側はスワローズ、左側はホークス。歓声で戦況を仕分ける、バックネットの裏の裏。
塀の中の中学校。壁の向こうの日本一。
ここまで来ると一球速報はいよいよ機能しなかった。
加えて悲しいかな、
「来年覚えとけよ!」「ガイジンばっかじゃねぇか!」「ねーパパ全然面白くなかったー。」と、勝利をあきらめたスワローズファンの罵声を聞きまくってしまった。
あなた方は試合を観られたじゃないですか!とは言わなかった。
日本一を、聞いていた。
胴上げを、聞いていた。
おめでとう熱男。ありがとう熱男。
全ての、野球をやったことがないのに野球をデータで語ろうとする人や、パワプロのゲームで知った気になって「君ってミート何?」って僕の能力を7段階で答えさせようとする人、少しだけでいい、今夜は静かにしててくれ。
ありがとう熱男。おめでとう熱男。
結局1試合も見ることができなかった今季。
「来年覚えとけよ!」は、僕の、僕への言葉なのかもしれない。