心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

239

土曜日、いつものようにいつもよりゆっくり目を覚ます。

昨日の同級生との飲み会も収穫はなく、15回目くらいの、えーい好きでもない人に投資するのはもうやめじゃいって思ってすぐ、15回目くらいの、そんなん言ってるからアイドルに走っちゃって、同僚から冷めた目で見られるんだぞって戒める。アイテテテ。

ベッドから体を上げておはよう違和感。

近しい感覚で筋肉痛。そっかそういや昨日お姫様抱っこでもしたんだっけ。もしくは打撲。そっかそういや触らないでってぶん殴られたんだっけ。

いやいや、指一本触れてないし、心一つも通じ合ってないさと浴びるシャワーは強がりで。どうも右の心、それも奥の方が痛いことに気づく。なんなら右腰もやや痛く、なにかこう、痛みを筋肉がサンドイッチして。飲めないのに合わせて頼んだ強いお酒のせいか、アイテテテ。

 

ええい、土曜出社。ひねると痛い。シャツも着られない。

駅までの徒歩7分で3回も立ち止まったのは、大雪の日も、桜が満開の日もなく、この町に越してきて初めて。たまった仕事を片付けながら、おんなじチームの後輩に笑う。君への指導であたしゃ胸が痛いよ。年度末もっとしっかりしておくれよ。

その晩サタデーナイトは新しい自由帳を買ってきて好きな漫画家を模写して過ごす。ふと寂しい40代がちらつき、アイテテテ。

 

日曜日、3、4時間寝て、痛い朝。もう少しだけ寝ていたい朝。

休日診療所、おじいさん先生の一言「ここじゃ分からんなぁ」でもしっかり1600円取られ、ハナから大きな病院へいくことを学ぶし、薦める。病院の最寄を聞いても、事務のおばちゃまからは電話番号を教えられるから、スマホが栄えたんだと思う。

救急外来に、徒歩で、駆け込む。

 

受付に、今日は休日だから診察費+8000円ドン!って書いてあってたじろぐ。そもそもここの病院を選んだのも定期圏内だったからで、僕の中のドケチきりまるは8000円に普通にビビる。これで最後、アイテテテ。

とは言え他に選択肢はなく、お金がかかる医師にかかる。待合室の人数のわりに待たされて川上未映子を読み終える。女心ののち、レントゲンのち、肺気胸ドン!

「肺に穴が開き、空気が漏れ出る。結果、肺が縮んで息がしづらくなったり、最悪心臓にも影響を及ぼしたり。」(えっ、えっ、なんですか?)

「君みたいな若い男性、イケメンに多いんだよ、ははは。」(え、ちょ、まだ飲み込めてないんですが、これ無事なんですか?)

「入院だね、家族はこっち?誰か荷物取りに行ける?」(終わった。)

すぐに管を入れ、空気を抜かないと、とのこと。拒否権はない。家族への電話?あー、管刺した後でもできるから!ウケる。

担当してくれた人が25歳で、部分麻酔の中聞こえてくる「私やりたいです!」「結び方これで合ってますか?」「あ、そこはそうやってやるんですね!」素直さは時に人を傷つける。ウケる。

 

メスって気づかないうちに2センチほど開くし、いつの間にか体に15センチくらいチューブをねじ込まれる。まずは肺から漏れた空気を抜くらしい。麻酔が切れると痛い。麻酔が切れると痛い。大事なので2回言いました。胸ドレっていうらしい、僕の呼吸に合わせて水位が上下に推移する、わりとアナログな箱を取りつけられる。

例えば結婚するってなったとき、誰に知らせようかってとってもワクワクするし、第一次情報の楽しいとこなんだけど、入院は何もワクワクしない。かと言って黙秘権もない。おかげさまでローニンもリューネンもなく、ネボーはあったけどケッキンはなかった僕がニューインだ。人生の一回休みが、まさかの年度末。「2週間かな」という見通しでは年度をまたぐではないか。ウケる(ウケない)。

 

あれよあれよと入院よ。

奇しくも同じ日に姉は入籍し、弟は入院し。これ一生言われるんだろうなと、田舎の口うるさい母を思う。

かくして始まった人生初の入院生活。心頭滅却しても肺には穴が開く。

お見舞いされる側から見たベストな手土産とは。病院という巨大組織と、美しくも寂しい都心の夜景と。老夫婦の会話から聞こえてきた理想の最期の迎え方とは。愛と、友情の、短いようで長い8日間+現在も更新中の入院生活。暇つぶしのつもりで書き始めたものの、どっちへ話をふろうかと、患者さんとしてあるまじき午前2時。

続く。

続ける。生き続ける。