クマモトに引っ越したのは小4で。
それまではなつやすみにばあちゃんちに行く程度。当時、空港で出迎えるのはくまモンなんて革新的なキャラクターじゃなくて、国体の時のちょっとキモキモしいキャラクター、調べたらその名をヒックル、ミックル、モックル。火の国って設定もよく呑み込めないまま、「かけちゃん、このお城さんは日本三名城って言ってね」ってばあちゃんに教えられる鶴屋百貨店の屋上。
小4のカナガワからの転校ということで、左遷島流し都落ち。泣くほど嫌だった。「そうだべ」って向こうじゃ当たり前だった中居くんのカナガワ弁を使っても「え、北海道から来たんだっけ」って言われてまた泣いた。ドロケーがこっちじゃケードロだし、向こうじゃドッジボールで敵なしだったのに自分以上に上手いやつがめっちゃいた。足の速さも負けた。子ども心にクマモトは強い、と思った。
方言にも表れている。語気が強い。語力が強い。九州弁って言うと「~と?」がかわいいよねずるいよねなんて呑気な人がまぁ東京には多いんだけど、いざ「なんしよっとや」って言われるとびびるでホンマどないやねん。
そんな小学生時代のカルチャーショック異文化交流駅前留学を経て1つ、好きな方言がある。悪口を言われても、ちょっとくらいヤなことがあっても、クマモトの子どもはみなこう言う。
「だけんなんや。」
熊本が、大変だ。
母からのメールには停電、断水の文字が、倒れた食器棚の写メと並ぶ。メールのタイトルには「人生最大」ってあって、やっぱりこの人のコミュニケーションは少し変わってる。
あれは前震で、今度のが本震で、なんて言わないで。
阿蘇山は噴火し、水は止まり、地震はいっこうに止まらないまじで頼むよヒックル、ミックル、モックル。
僕より強いはずの姉貴のLINEが弱ってる。精神的にしんどいと思う。
帰りたくても陸路も空路も閉ざされている。水って送れるのだろうか。
情報も、状況も、しちゃかちゃでい。
何もできない。でも、
「だけんなんや。」
がんばれ!熊本!超がんばれ!
頑張っている人に頑張れって言ってはいけません、って臨床心理学の講義で聞いたことあるけど、だけんなんや。9年過ごした出身の僕だからわかる。これくらいじゃ負けない。安全第一で耐えてほしい。
普段、特段、出身地を述べたり方言を使ったりはしていないのに、「実家大丈夫?」って聞いてくれる皆さんのありがたさを感じながら「熊本出身の」私として認識されていることに気付く。
パンツ脱いでから着替えの新しいパンツを探しちゃうようなちょっと抜けている野球部の友人でも、県外に出たメンバーに「実家に何かあった人は手伝うけん言ってね」ってLINEをくれる。
ゴールデンウィークは必ず帰る。昨年は達成賞与で帰ったけど、今年はそんなもんなくても帰る。肺気胸やっちゃったから飛行機は怖いんだけど、だけんなんや。帰る。
「だけんなんや。」
クマモトはきっと、強い。
がんばれ!熊本!超がんばれ!