心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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「自由にやって。」と頼まれた乾杯の挨拶の自由をはき違え、結果的に地力が足りず僕ら以外の列席者を苦笑させるものになってしまったので、お詫びと今までの言葉にできないありがとうをできる限りまとめてみようと思う。

人生の大親友、谷村君が結婚した。

今にして思えば、「14歳の転校生」に影響を受けないワケがなかった。

 

僕らの中学は、数年前に生徒数日本一をたたき出したようなマンモス校。売店を掃除していると2年13組なんて校章が見っかるようなちょっとした社会の縮図に、突如として彼は越してきた。そりゃまぁ転出入はいつだって突然なんだけど、その時は彼がこんなに自分の人生を語る上で不可欠な存在になるとは思わなかった。っていうの、あるあるですよね?出会いに感謝、である。

 

野球の話からしよう。中3にあがる春休み。それまでの鬼顧問(あだ名UT)が異動され気の抜けた野球部の見学に来た彼に一番最初に話しかけたのは僕なんだけど、ここだけの話「カネムラ君だってよ」って聞き間違えた嘘の名前を部内に拡散させてしまったのは今だから言えるごめんなさい。後日同じクラスになったエッちゃんから「タニムラだったよ」って言われてやべってなったのを覚えてる。

サウスポーで、左打席からボカスカ打ちまくり、あっという間に谷村はレギュラーを取った。ベスト8進出3回とは言え、エース以外はへっぽこ弱小チームだったから納得だ。これは2人とも覚えてるんだけど、初めてがっつり喋ったのは雨の日のブルペンで。左右お互い投げ込みながら、オナニーの話で盛り上がった。中学生なんてそんなもんだ。エース以外はへっぽこ弱小チームだったから納得だ。

 

語り尽くせない彼との思い出のドラマチック部門グランプリは、最後の大会中体連。県大会出場をかけた対西山中。1死満塁サードランナー谷村。これ以上ないチャンスに、9番ハマちゃんが放ったこれ以上ないボッテボテのピッチャーゴロ。

不運なことに相手投手も慌てたのか、指に引っかかりバックホームの球が逸れ、要らない交錯クロスプレー。結果、(これ結局後日病院で分かるんだけど)谷村選手両足骨折。笑

とは言えこれはベスト4をかけた最後の大会。足を引きずりながらも次の回レフトの守りにつく谷村。センターから声をかける僕。明らかに動けてないレフトを狙って打ってくる西山中打線。左翼線にファールが飛んでもほぼ1歩も動けていない絶望的状況で、ホント奇跡みたいなんだけどこの回彼はレフトフライを2つ処理した。

スリーアウト目のフライを彼がキャッチしたとき、僕は思わずライトのハマちゃんを呼び寄せて二人で谷村の脇を抱えベンチへ戻った。水前寺球場は拍手喝采感動の嵐(言っても平日、両校の保護者数十人しかいないけど)。このシーンは中継していた地元ケーブルテレビにも、報道ステーションで言う「熱盛」的に取り上げられ、解説者も褒めてたらしい。うちケーブルテレビ映らないから本物の映像を見ちゃいないんだけど、先日の谷村の結婚パーティーでもその写真がムービーに出てきて胸が熱くなった。熱盛。

チームは1-0で惜敗する。僕らの夏が終わった。

 

野球を取ったら何も残らない、なんて中学生は実はそんなにいなくって、早速通いだす夏期講習。僕らは偏差値も志望校も同じだったので、野球を引退してからの方がさらに仲良くなる早稲田スクールからの帰り道。

彼のものの見方は僕にはないものを持っていて単純にすげぇおもしろかった。例えば、中学の校長の話なんて誰も聞いちゃいないんだけど、「あの話は着眼点は良いけど着地のさせ方が違くね?あれじゃ伝わらんだろ」みたいな指摘を全校集会とかにカマしていて、そんな中学生なかなかいないからこいつめんどくせぇなってハマってったし、僕の口癖が「たしかに」なのも間違いなく谷村の影響なんだと思う。あとたまにカラオケにも行った。普段の声とは想像もつかないくらいの美声で歌めちゃうま。『スノースマイル』は何回聞いたか分からないし、僕は『even if』を何回歌ったか分からない。こないだの結婚パーティーでも、奥さんが大好きな安室ちゃんの『CAN YOU CELEBRATE?』をサプライズで歌ったのは、こっちも照れたけど、やっぱり上手かった。

 

そんなこんなでお互い同じ高校に入学するわけで。お互い野球部に入部するわけで。

ここから先のストーリーは谷村の兄、谷村さんをはじめ野球部のメンメンに大変大変お世話になる。こないだの結婚パーティーにも想像以上に野球部が集まっていておかげで居心地がよかった。サウスポーエースと、「みんな行くばい!」っていの一番に呼びかけたキャプテン奥ちゃんのチームだったことを改めて思う。九州は宮崎のぐっさんや、三重でヤクやってる(製薬会社)ヨネミや、顔が年々小さくなってる大学院生タナティーと、顔が年々大きくなってるパントマイマーシオンの横並びだけで笑っちゃった。全員は書ききれないんだけど、実は一番変わったのは奥ちゃんだと思っていて。強烈なキャプテンシー、と言うかジャイアニズムで、僕らを引っ張ってくれた奥ちゃんの発言が「泣きそう」とか「結婚超よくない?」とか、高校時代からは考えられないくらい終始浅ぇのばっかりだったのがおもしろおい江上、出欠の返事しろよ大事だぞそういうの。

 

高校時代は谷村君に加え、中嶋君という大親友もできた。いつも3人で帰ってはなんなら練習時間より長く語り合った、帰り道△の分岐点。あの頃あの時作ったクダリは一生忘れない気がする。コンビニのオネェ店員ゴウさんとか、ナンのためにとか、20点古畑とか、ナソキチもシノのケツもオタチャンクイズも、何を賭けるわけでもなく称号を得るわけでもなく毎日昼休みやった大富豪も(4右渡しってなんだよ)。

2次会に来てくれた谷村の奥さんが「なぜ彼が大学で楽しくなさそうにしていたかが分かった。あの環境を一度味わったら仕方ない。」って言ってたらしいんだけど、僕らにとっては最高の褒め言葉かもしれない。そうなのだ谷村はいつもなんか不機嫌そうでむすっとしていて、「怒ってる?」って聞かれて「いや、怒ってねぇよ」って怒り出すやつなのだ。寡黙で口下手かと思いきや持ち前の批評家精神はピカイチでそのセンスが面白いんだけど勘違いされやすくいや、むすっとするなよ。歯、出して笑うといいかもよってアドバイスしておこう。

だから、だからこそ、もう一度言うと、僕らといるときは最高に面白いんだけど、シャイで批評家で色白で日焼け後がすぐ出るそんな彼が結婚するって言ったときはびっくりした。っていうのも、あるあるですよね?一番最初の結婚の報告は誰でもびっくりだ。

 

あれはちょうど私事ですが肺気胸やってた昨年3月の病床。お見舞いに来た谷村に「この出会い系アプリが世界的に流行ってるらしくてさ」「看護師さんってのは見た目より愛想だな、ちょっと美人ってだけじゃやってられないな」なんてくだらない話をする僕に一言「俺、結婚するわ」ってははぁなるほど、この差はどこで。

前々から付き合ってたことは聞いてたし、もうずいぶん経つから多分だけど相当谷村のことを分かってくれているんだと思う。僕もまぁ付き合いは長いけど、ここは男女の差、僕らの知らない彼を支えてくれているに違いない。高校時代より大学時代の方がそりゃもっと腹割って付き合ってるわけで、ケンカとかしながらも逃げずにちゃんとしてきたんだと察する。

 

ベタだけど結婚っていう決断力は男として幾らでもかっこいいし、ある種確実に手の届かない人になったから、いい意味でどんどん差をつけて夫としての正解を見せつけていただきたい。奥ちゃんとショウマは「泣きそう」を連呼していたけど、もしそのうち子どもでも生まれたなら、さすがの僕もちょっと涙腺が危ない気がしている。ふざけたオシメでも買ってあげよう。変顔でも一発ギャグでもたくさん笑わせてやろう。手始めに、ゴウさんのマネがいいかな?古畑はあれ、チュパチュパうるせぇよって君のツッコミがあって初めて成立するやつなんだけど伝わるかな?

 

今にして思えば、「14歳の転校生」に影響を受けないワケがなかった。

影響を受けまくっているよありがとうという想いを、「私もあなたの数多くの作品の1つです。」って乾杯のスピーチでタモリさんの弔辞を引用してしまったことは深くお詫びいたします。ただ、あれ、パーティーの列席者の中で中嶋君だけ笑ってたから、つまりはそういうことなんだと思います。

 

当分こっちサイドに予定がないのが難点なんだが、僕の結婚式にはお返しを待っています。すなわちスピーチ的なことをぜひお願いしたいと思うんだけど、君は言っても寡黙で口下手ではあるからそうだなあれでいいよ、安室ちゃんの『CAN YOU CELEBRATE?』をサプライズで歌うっていう。

野球部、爆笑するから。俺、それ見て多分笑って、泣いてるから。

 

結婚おめでとう。今まで本当にありがとう。

これからもどうぞよろしく。