心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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とある商談後のこと。「主張があってこそ、腹に落ちてこそ言葉は出てくるもんだ」と同席いただいたボスから教わる。早速手帳に書き留める。反芻する。丑年だしな。牛の胃袋は4つある。頭の遠くの方からメロディが流れてくる。ウシのいぶくろは4つある。あれ?何の歌だっけ?って調べたらむしまるQで流れてたらしい。むしまるQかよ。いや、むしまるQて。子どもの頃聞いた曲は頭からこびりついて離れない。胃袋の4つの名前ミノ、センマイ、ハチノス、ギアラは毎回聞いても忘れちゃうのにな。あれ、さっき頼んだこのコリコリしてるのは何?ホルモン?あ、ホルモンは総称なの?レイヤーが違うのね。もつは?え、もつも総称なの!?

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「主張があってこそ、腹に落ちてこそ言葉は出てくるもんだ」の裏を返すと、こうして言葉が勝手に出てきて何か書きたくなってる時、ひょっとして僕にも主張はあるのかしらとほのかに期待する。孫さんの「髪の毛が後退しているのではない。 私が前進しているのである。」よろしく、バカリズムの「心が折れそうだけど、実際に折れることはない。棒状じゃないから。」よろしく、こうした当たり前の視点を変えてくれる言葉遊びがずっと好きで「助け舟が、沈没する」とか「揚げ足をとるなよ」「いや、お前が勝手に足を上げてるんだろ」みたいなくだりに興奮しちゃうので、言葉攻めしてください。友人のシノくんのワーディングが高校時代からずっと好きで彼の口から副詞としての「死ぬほど」をよく聞くんだけど、前に山登り一緒にした時だったか疲労困憊になりながら「いや、死ぬほど死んだ!」って言ってておかしかった。さてこんな思い出なつかしみおじさんに何の主張があろうか。20時過ぎたら閉店する街の居酒屋。静かなご飯の森の影から。毎年の年末に展開されていたぐるなびの広告「忘年会はお祭りだ。」というコピーが懐かしい。コロナ禍ももうすぐ一年。みんなでワイワイの「ワイワイ」が「ドードー」みたいに絶滅危惧種になっている。「昔パパも友達とワイワイやったんだよ。」「ねぇパパそのワイワイってなあに?」みたいな。

 

青年の主張。小学生の頃からの友達古森氏にいつだったかこんなことを言われた。そん時もたしか山登りに連れてってもらった時のこと。「ほしかわブログはレビューみたいに答えや主張がないけど、共感や発見はある。さらっと読んだら言葉遊びに終始してる文で何かしら意見があるはずなのに、スタンスははっきり言わずじれったい。細かさはすごい出てるのに、結論はどっちでもない。総合するとなんなの!?」ってじれったさを豪速球でぶつけられたことがあって思わずそのままメモしてた。郷土の星、演歌歌手の八代亜紀さんが「聴き手が感情移入するためには、歌い手が主観で感情を込めてはいけない。悲しい唄も悲しい表現で歌わずあえてサラッと歌う。その方が共感してもらえる」って言っててたまに意識してる。出来上がった粘土を全力でどうだ!ってぶつける時もあるけど、まだ成形前の粘土を境界線を探りながらそっと誰かに合わせて形作るみたいなイメージ。およそこれ読んでる人は僕の友達か周辺の人たちできっとみんなポリンキーのCMで踊り出したことがあるし、出会ったり付き合ったり嫌いになったり振られたりしたことがあるし、やば!もうアラサーじゃん!って嘆きながらも為す術はなく時の流れに身を任せてたりするから、自分が思ったことをわざわざ「主張だぜ!」なんて言わずともそっと伝わってくれるありがたみ。自分のあるあるは同世代のあるある。これ「あるある」あるあるアル。マクロで見ると同一民族、悔しさとか何クソとか今に見てろよという思いって実はわりかしみんな持っているから、そこに特別なんてのはそんなにない。俺だけ特別なんてことはないのよ、なぜならみんなが特別だから。いい加減目覚めなさい女王の教室

野球やってたから分かるけどキャッチボールは投げるより受け取る方が技術がいる。ショーバンも逆シングルも時には胸に当てて止めに行ったり、受け取る人あってのコミュニケーションだよなぁと夜中に1人文章書いてて思う。zoom飲みしてて誰かがトイレに立った時とか飲み物を取りに行く時とかに、その人の形がそのまま空いたような部屋の景色を見て、あぁこの人はこんな暮らしをしてるのだなぁと思いを馳せたりするって誰かが言ってて、なるほどなるほど人間は人の間。薩摩酒造が造ってる芋焼酎白波のラベルにこんなコピーが書いてある。「白波や 酔えば逢いたい人ばかり」。書いてて思うけど、素面でも会いたい人がけっこういます。いますよね?

 

『リング』や『らせん』を書いた小説家鈴木光司さんはこんなことを言っている。

“花は美しいというと「美しくない花もある」という人が出てくる。そのクレームを想定し「美しい花もあるが美しくない花もある」と書く。それはもはや言う必要のない文となる。全ての人が納得する文では表現にならない。勇気が必要である”と。これを読んで中学の卒業アルバムの苦い思い出が蘇ってきた。

学年400人を超える社会の縮図。卒アルの顔写真の下、1人20字まで好きなことを書いていいと言う。「マヂ3-10ラヴ♡我ら友情永遠に♡」みたいなギャルもいれば、「一生野球を続ける。」って書いた次の春、高校でボートを始める元球児もいて、いや一生とは?って八代亜紀もびっくりの人生いろいろ。我が母の教え「あんたマス目があるならギリギリまで書かんね、さぼんな!」が染み付いてる僕はなるべくマス目たっぷりに書こうと試みる。で、これだ。 

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腹話術師ではなく福を運ぶ福話術師になる

いや、くさいくさい!中学から仕上がってたな君!ってのはおいておいて言わんとすることは恐らく伝わるのでこの場合「腹話術師ではなく」の部分が完全に蛇足なのです。「美しくない花もあるが」状態。もっと言うと「福を運ぶ」すら要らなかったんじゃないかとも思うけど、「福話術師になる」とだけ書くときっとクラスメイトのバカゴリラ川畑あたりに「お前漢字間違っとるバイ、だご恥ずかしかろ!?」って笑われるので丁寧めに説明しておいてよかったと思う。こんな風に主義や主張はありそうでまるでないが、エピソードトークやら笑った話を放り投げて通り過ぎた後に何か残ってたら、死ぬほど、嬉しい。

 

「見えないものと闘った一年は、見えないものに支えられた一年だと思う。」ってカロリーメイトのコピーは、今年の受験シーズンも受験生の胸を打ちまくってて好きだな、死ぬほど。公式サイトを覗いてみるとこうある。

カロリーメイト公式サイト | 大塚製薬

“見えないものと闘った一年は、見えないものに支えられた一年だと思います。
今年の生徒と先生は、例年以上に“戦友”のような関係だったのではないでしょうか。

その見えない絆の強さこそ、きっと底力の正体です。
「見せてやれ、底力。」すべての受験生と、そして先生に贈るCMです。”

カロリーメイトを食べる時。もっと言うと誰かにカロリーメイトを渡す時。手に握りしめてる時、言葉が届く。これまでのコピー「見せてやれ、底力。」の真ん中はブレさせず、今の受験生に寄り添っていてすごいコピーだなぁってただ感動する。「見せてやれ、底力。」の前のコピー「とどけ、熱量。」が生まれた背景、コピーライター福部さんのインタビュー記事を調べてみると、当時世の中はカロリー0、カロリーハーフの時代。訳したら“カロリーの友”のこの商品が売れるのか?できれば名前を変えたかったらしいけど、商品名はやすやす変えられない。であれば「カロリー」という言葉の意味をアップデートするしかない。そこから“熱量”を持ってくる。最初「その熱量に、カロリーメイト」というコピーでプレゼンは通ったらしいが、少し弱いと悩んだ。そこで生まれたのが「届け、熱量」。さらにアートディレクター榎本さんのアイデアで「とどけ、熱量」と漢字を開くことになる。裏話、クライアントの大塚製薬からは「とどけ、情熱量」にしたいと言われ、必死で説得したらしい。満島ひかりが歌うファイトはいまだに年末の歌番組で歌われている。

 

調べてみたらまさか森山直太朗youtubeチャンネルに今年のCMのフルバージョンがあるじゃないですか。お願いがあるとしたら、もう4分36秒ください。この動画の全部の言葉と表情が、嘘みたいに素晴らしいから。ボディコピーの中にいいコピーが3つぐらい入ってるのが良いボディコピーの条件ってコピーライターの先生が言ってたんだけど、そんな感じ。食い応えのある言葉が2,3個入っててすごい見応えがあります。

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どこにも行けない一年は、想いを馳せた一年でもあったのではないでしょうか。

僕が住んでる学生街、駅には受験生を応援するメッセージが張り出される季節になった。受験生の頃の自分から軽く10年以上経った今でも、熊本から東京に出てきて3つくらい入試を受けた2月のあの1週間の緊張は冬空みたいにピンと思い出される。この季節、毎年思い出して話したくなる話があるので、書いておきます書いたら寝ます。

 

中学受験を知らないからあれだけど、都内では毎年2月1日が中学受験でその前日、1月31日の新聞には学習塾が応援の広告を出している。思わず撮ったこの写真は2015年のものなんだけど、自分の出身小学校と受かった中学校と実名付きで先輩として中1が直筆メッセージを書いていて、見れば「戦い」とか「強い意志」とか「○○で待っています」みたいな先輩風ビュービューの成功者の言葉たち。とは言えもしも自分がこの立場で後輩たちにメッセージをとか言われたら、もう鼻の下は伸びるわ鼻は天狗のそれになるわ、ご満悦に偉そうなワケわからん言葉遊びを述べると思うんですお恥ずかしながら間違いない。「勝者の心構え」とか「絶対に負けられない戦いがそこにはある」とか挙句の果てに「We Are the World~僕らのウォーゲーム~」ぐらいまでこねくり回してたと思うんだけど、そんな中「気楽に。」ってだけ書いた右下の子きっと優しい子。どや顔を一切見せずにナイーブになりがちな受験前日の後輩たちの胸に響かせる。主張があってこそ、腹に落ちてこそ言葉は出てくるもんだ。

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個人的には、何を書こうか迷いまくった結果、考えが回りまわって「笑顔」とニコちゃんマークだけ書いた真ん中の子もけっこうな大物だと思う。いや、「笑顔」はさすがに受け取り手分かんなくなっちゃうだろ。彼だけタレントスクールみたいなところを受験したのかな。はい、笑顔笑顔!

目下の人や後輩と話す時に、人としてこうありたいと謙虚な気持ちになる1月の終わり、2月の頭。「気楽に」って言える彼こそ、ひょっとして福話術師なのかもしれない。(腹話術師ではなく福を運ぶ方の。ってまた美しくない文章でおしまい。)