心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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例えば、ガールフレンドができたことをどうやって伝えるか。

【嬉しいご報告】なんてつけてお世話になっている皆さんに伝えるのがfacebook。ケッコンシュッサンラッシュのタイムラインで今更ガールフレンドができたことを伝えるなんてけっこうこっけいもうけっこう。場所を変えよう。

次の町では直接伝えるのはヤボらしい。彼女がトイレに行っている間に撮ったコーヒーが2つ並んだ写真をあげて「あー、ほんとすきだ」って言葉を添えるらしい。あるいはデート終わりの帰り道、咲いたかどうかの桜の写真をあげて「きょうの服、かわいかったな」と呟くらしい。察して、がすごい。甘えるんじゃないよ。伝えろ、伝わるを待つな。助手席からの景色をあげて「いつも運転ありがと」じゃないのよ、直接言いなさいよ。インスタグラ村はルールが多い。喜色満面でニコニコしていぇーい彼女でけたよ~!って呟くのが何周かまわって正解では?って思うんだけど、これはこれで何周か回って不正解っぽい。向いてない。場所を変えよう。

で、戻ってくるのがTwitter。多分きっとこんな感じ。

“いつも眼と歯がきれいな人だなぁと思っているので「あたしのどこが好き?」ってとっさに聞かれてつい「眼と歯」って答えたら、とんだパーツ好きのサイコ野郎みたいな軽蔑した目で見られた。例のきれいな目で。ごめん、うそついた眼と歯とおしりが好きです。彼女ができました。大事にするよ~!”

ってなんか1つエピソードトークを入れなくちゃいけないっぽい。照れ隠し照れ隠し。

SNSに呟かれる内容なんてのはどこまでいってもよそ行きだから最近はあまり深く考えないようにして、飲みに行けない今は「お、生きてるな」ぐらいの生存確認にしている。もしもし、どんな春ですか?しばらく会ってない友人に会いたい季節になっちゃったぜ。

 

緊急事態宣言のさなか、PCR検査、タブレットの前の検温。マスクケースまで製品化される世の中。こういうのを見るとマスクケースが汚れるのを防ぐマスクケースケースみたいなものが延々と作れる気がしちゃう。バクの悪夢は誰が食べるのマトリョーシカ

僕の人生の大親友の1人、勇太の結婚式のため1年3か月ぶりに熊本に帰る。大親友のまた1人、谷村と2人でスピーチをしてほしいという。高校時代毎日3人で一緒に帰っては、部活の練習は1時間半で切り上げられたのに2時間半は語り合った3人の分かれ道。あの三角のところ、居酒屋うろこの前の三叉路、踏切。あの日あの頃あの場所で生まれたくだりはいまだに笑けてくるんだけど、僕ら3人以外に話してもそんなにウケた試しはなくて、「俺らが特別におもしろ3人組であったとかではなく、多分きっと1ミリも面白くない話なのにキモいくらい笑ってただけでどうかしていた」と谷村が言い、我々は腑に落ちる。コロナで難しくなったけど、同じ時間と空間を共有するって非常に尊い。これまでの感謝も込めて、前科やらかしがあるので入念に準備する。(前科、谷村の披露宴のスピーチで地獄のように滑り散らかした罪)

https://showkakeru.hatenablog.com/entry/2017/05/28/233924

 

その男、勇太との出会いは実は小5の野球教室まで遡る。熊本のバッティングセンターで元プロがテニスコートでノックを打ってくる変な野球教室トウヤ。小4で野球を始めたもののあまりに下手すぎて心配した親が送り込んでくれたわけなんだけど、23球出てくるバッティングマシンの球をちゃんとバントが成功するまで打っちゃダメってルールがあって真冬、初球で右人差し指を挟んで痛くて泣いて1球もバット振れなかった、そんなうんちプレーヤーの僕を差し置いて、足は速いわバッティングは上手いわ足は速いわ守備も上手いわ足は速いわで輝いて見えた。いや足が速くてあんま見えてなかったかもしれん。

月日は流れてびっくり再会したのが中3の塾の夏合宿。例のごとく谷村といる僕に気づいて勇太が声をかけてくれた。我が中学は中体連の試合がローカルテレビに取り上げられたりしたもんで、「これがあの時の!あの骨折の!」と2人は初めて顔を合わせる。後日印象を聞くと、「骨折して松葉杖ついた谷村に睨まれた」と勇太は話し、目つきの悪い谷村は「まただよ、睨んでないのに」と嘆く。縁ってのはあるもので、そのあと熊高の体験授業でもお互い国語の授業を選択しており、65分の授業を同じ班で受ける。この時の体験授業で扱った夏目漱石夢十夜』第一夜を教えてくれた先生の65分の使い方が完璧で、最後どうして百合の花だったのか?という設問に僕らが「百(年目に)合(う)だ!!」と答えた瞬間にチャイムがなって沸いた。65分授業だったらここまで長くお題に向き合えるのか!って感動した記憶がある。いざ入学したら見事に体が順応せず、中学の頃の授業50分の分だけ起きておくのがやっとで、毎授業必ず15分は寝てしまった高校時代だったけど。こうして今、僕が広告とかコピーの出版社で働き、勇太は国語の教員になったのはきっと何かの不思議な力かもしれない。

で、高1でいよいよ同じクラス同じ野球部になってそこからはや15年ぐらい、楽しい記憶と笑顔でなくなる僕らの細い目。挨拶、谷村と2人、何しよう。僕がスピーチしている後ろで谷村がずっと難しい顔して無言でシャドーピッチングしてるって案は早々にキャプテン奥ちゃんにやばくない?って却下された。やらなくてよかった。あるいは谷村もまた絵本の出版社で働いているので言葉にこだわりのある2人で国語教員にスピーチを挑みます!って前フリしておいて、一言も発さないWORLD ORDERの始球式みたいなことしようって案も出た。

www.youtube.com

練習時間があと3時間あったらやってた。

で、考えたのがトークテーマパーク勇太を表す100のエピソードトーク企画。

“新郎勇太はとにかく視点が面白くて普通は見過ごしてしまったり流してしまったりする話題でも「どう思う?」「これ〇〇じゃない?」と聞いてくるのでした。何より対話を好み、世界を広げようとする。会うたびに話題を提供してくれる彼についたあだ名は「トークテーマパーク」。そんなトークテーマパーク勇太に今日は僕らからトークのお返しをしたいと思い、勇太のエピソードトークを100個持ってまいりました。(蛇腹に畳んだ式辞に書かれた100のお品書きを取り出す)

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とはいえ所詮はエピソードトーク。知らない登場人物の話を繰り広げられても初見の方は辛いと思いますのでせめてもの双方向性、インタラクティブにいきたいと思います。これからランダムにご指名させていただきます。指名された方は1から100までの好きな数字を言ってください。それに合わせてこの中からお話しします。ではまず新郎の妹さんから行きましょう。”

 

なんて台本にして気づく、さすがに100個もねぇ。怒涛のエピソード集めが始まる。怒涛で思い出したけど勇太の「①怒涛の快進撃」。高1、芸術の選択授業で書道を選んだ勇太。先生が言う「好きに何でも書いていいよ」になぜか「怒涛の快進撃」と書く。意味わからなすぎる。それはそれは達筆だったもんでクラスの掃除箱の内側に掲げられ、掃除時間に飛び込んでくる書に僕らもちょっとモチベーションが上がったりした。「②反旗」そんな高1のお昼休み、他クラスの人もうちのクラスに遊びに来てて気づけば知らない同級生がワガモノ顔で弊クラスにたむろしている。乗っ取られることを恐れたのか急に勇太が言う「干川、反旗を翻さないか!」翻さないよ。なんだよ、変な抗戦に巻き込まないでくれよ。

1-6で一緒だったマエダもイケダも何の役にも立たなかったけどマサシはちゃんとエピソードをくれた。「勝手に勇太のことをのんびりした人だと思ってたけど、体育のソフトボールで打った後激走してたのが印象強かったね。ピッチャーゴロでアウトだったけど。土埃すごかった。」もっとかっこいいエピソードをくれよ。マサシはこないだ僕が熱出した時Twitterでお大事にねってくれたから、あいついつの間にかヤサシに改名した可能性あるな。在校生時代1回もお話したことないのですが、ムラタ君経由でエピソードくれた美人女医の園田さんありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。エピソードを卓上に並べてみるとどうしてなかなか変な人である。

「③ヒロシ」僕らの野球部に勇太と同じ苗字の中嶋ヒロシというやつがいた。高2になりたての頃、部室前で何やら野球部の後輩たちに指導する勇太の姿「ええか、俺のことはナカシマさんと呼べ。中嶋ヒロシさんのことはヒロシさんと呼べ」ヒロシ知らないうちに苗字奪われた。暴君。「④ポケモン」周りがポケモン金銀をやる中、持ってないけど自分も話についていきたかった勇太少年。ソフト持ってないのに攻略本だけ買ったらしい。やってる人なら弱すぎて誰も使わないくそマイナーキャラ“アリアドス”にハマり「アリアドスもう出てきた?」ってやたら推してくる。アリアドスのエピソード持ってるの勇太だけだよ。「⑤ミニ四駆」同じ頃、ミニ四駆が流行ってた僕らコロコロ世代。よく知らない勇太が流行に乗り遅れまいと買ったミニ四駆は「メガ四駆」ってパチモンで、でかすぎてコースに入らずみんなとレースできなかった悲しい話。「⑥燃える」同じく子どものころ週刊ストーリーランドというトラウマアニメをやっていた。たまのたまにほっこりステキな話もあるんだけど、ほとんどは欲におぼれたり、人が死んだり鬱アニメ。その中で謎の老婆シリーズ「早くなるスプレー」というお話を以下Wikiから引用する。

100m走で9秒99の日本記録を達成したが、それまで全く無名だったため週刊誌でドーピング疑惑を報じられる男朝井。ある日、新聞で「2億円を盗んでバイクで逃走する」というニュースを見て「はやくなるスプレーを使えば簡単に金が手に入る」という事を思いつき、宝石店に侵入して盗みを行い「はやくなるスプレー」で逃走した。しかし、かけ過ぎてしまい、音速を越えるスピードで走り続け、空気抵抗による摩擦熱で足から出火し、全身に燃え広がり焼死した。朝井がいた場所には灰だけが残っており、夜明けに風が吹いて灰が吹き飛ぶシーンで終わる。その後のモノローグで「人生まで素早く駆け抜けてしまった」と語った。

謎の老婆 - Wikipedia

後味悪すぎるこの話を小さいころに真に受け、自分も足が速いから燃えちゃうんじゃないかと不安になったらしい。これだけならかわいい話なんだけど、怖いのが勇太、本当に指短いんだよな。。燃えたんじゃないかって僕と谷村で話してる。「⑦鹿児島遠征」短すぎる指は弊害を生む。鹿児島遠征谷村・勇太の急造バッテリー。スクイズ警戒で外さないといけないのに指が短い勇太のサインが上手く見えず意思疎通ができず最後スクイズで負けた。相手チームは夏の引退前の控え3年生。謎に花を持たせちゃった話。「⑧阿鼻叫喚」どれぐらい足が速かったか園田さんが証言してくれてる。“小学校高学年の頃、運動会でクラス対抗リレーがあってクラス30人くらい全員走るやつで、勇太君がアンカーだったんだけど、アンカーにバトン渡すまでにリードしてても、勇太君が運動場の半周くらいの差を逆転しちゃうくらい早くてみんな阿鼻叫喚だった。”いや、阿鼻叫喚て。「⑨ゆうたをプロデュース」野球部キャプテン、生徒会長。正義感とリーダーシップの塊勇太のすごいのが不良からも慕われていること。勇太がいるとみんなまとまるらしく人望がすごいと園田さん。文化祭で「野ブタをプロデュース」に倣って「ゆうたをプロデュース」って映像を生徒会で作って流したら大盛り上がりしたらしい。本当に学園のヒーローじゃん。でもこれ怖いのがどんな話だったか園田さんもアベッチも覚えてなくて、本当は盛り上がってなかったけど勇太が捻じ曲げたんじゃないかってこれも僕と谷村で話している。

 

みたいなことをつらつら書き出していく。キャプテン奥ちゃんもいいネタをくれる。「⑩オーヤン・フィーフィー」LINEのない時代、メールの一斉送信でチャットのようなことを楽しんでいた僕ら。勇太は着信音がうるさくなるのか終わらせたいタイミングで唐突に「ラブイズオーバー 悲しいけれど 終わりにしよう キリがないから」と送ってきて、以降誰もメールを送れなくなる。暴君。あまりにちいちゃい話なんだけど何故かいつもLINEグループを自ら退会する。「勇太が退会しました」って文字に、やべぇおれらなんかやらかしたっけ?ってなるけど煩わしいだけっぽい。僕らの帰省の集まりは勇太をグループLINEに加えるところから始まる。マイルールがあって自分の正義があってその生き様は「神様勇太様」なんて呼ばれもしたけど、我々の高校に「神」やら「社長」やらがあだ名の先生方がいて、集ってる感じがあった。「結果論のにしう」は結局いつも笑っちゃう。

なんとか捻り出しても100は届かず70個くらいは関係ない高校時代流行ったくだりを書いたり、思い出話を書いてしまった。卒業旅行で行ったパリはエッフェル塔で黒人に絡まれた僕がビビりまくって瞬足の勇太よりも早く駅に逃げ込んだ話とか、いつもの三叉路溜まり場でくっちゃべってる時「アニキ」ってあだ名の小中の友人が通ったから僕がデカめな声で「アニキ!!」って呼んだら全くの別人でビビらせてしまった話とか、たいていやらかした話ってのはずっとおもろい。いつ思い出しても笑えるくだりが結構ある人生が嬉しい。そんなん考えながら台本に起こしてたら一睡もできなくていざ、熊本!

 

「ただいまご紹介にあずかりました、新郎の友人、谷村と申します。勇太、〇〇さんこの度はご結婚誠におめでとうございます。どうぞお座りください。

誠に僭越ではございますがご指名いただきましたのでお祝いの言葉を述べさせていただきます。なお、大変緊張しております。慣れないこともあり噛んでしまうかもしれませんが、耳を傾けていただけると嬉しいです。それではホシカワが読み上げます。」

って谷村が読み上げてあとは一通り僕が話す。やっぱり寄せ集めエピソードはそんなに強くないから春のそよ風みたいなウケしかなかったけど、勇太の妹さんの旦那さんだけ爆笑してくれてて、勇太、彼はいいやつだから優しくしたげてくれ。LINE退会したり苗字奪ったりしないでさ。僕が最後までエピソードをいくつか話し合えた後、谷村にバトンタッチする。

「大変拙い挨拶ではありましたけれども、最後まで聞いてくださりありがとうございました。これから、楽しいこともあれば辛いこともあると思いますが、いろんなことを2人で乗り越えて、2人で、2人らしい素敵なエピソードを作ってもらい、またいつか話を聞かせていただければと思います。2人の末長い幸せを願って私たちからのお祝いの言葉とさせていただきます。」

 

一仕事終えて1年3ヶ月ぶりの実家でくつろぐ。開いた高1のクラス文集の勇太のページ「最近笑ったこと」と「最近怒ったこと」の両方にHOSHIKAWASって書いてあってうける。我が家を建てたとき「この家にはホシカワが4人いるからHOSHIKAWASだ!」って血迷った親父が表札にSを付けて複数形にしたんだけど、それを見た勇太が「井の中の干川ズ」と名づけるのdisりがすごい。それがいつの間にか僕ら3人のLINEグループ名になる。今のグループのアイコンはzoom飲みしててアホな顔で固まった私の顔面。

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「俺らが特別におもしろ3人組であったとかではなく、多分きっと1ミリも面白くない話なのにキモいくらい笑ってただけでどうかしていた」って谷村の評はいまだにズバリ当たってる。

なにか、その人のエピソードを文章に書くときLINEを遡る癖が僕にはあるのだけど、今回もまた掘り起こし遡り思い出に浸る。あれはコロナブームの直前2020年2月、生徒のための企業訪問で東京に来ていた勇太と奥渋にあるお洒落バーで3人飲んで帰った次の日、勇太からこんなLINEが届く。

「昨日はありがとう!久しぶりに楽しかった。またオリンピック周期ぐらいのスパンで集まれるときは集まろう!誰かが死ぬか入信するまで」

このザワザワする読後感で軽く不謹慎なんだけど、好きな言い回しのひとつ。彼らとまた変なくだりを作りたいので長生きしようと思うし、入信しないでおこうと決める。いや、入信て笑

 

家族以外の誰より長い時間を過ごしたあの日々にとてつもなく影響を受けていて、そういう意味ではすでに「入信」済みなのかもしれない。僕の口癖が「たしかに」なのは激論を展開する君と谷村の影響だし、僕の目が細いのは君らにたくさん笑わせてもらったからに違いない。逆にもし、そんなわけないのだけど、君の目が細いのは谷村と僕がたくさん笑わせたからだったとしたら、信者にとってこりゃとんでもなく光栄である。

勇太、結婚おめでとう。末長くお幸せに。