心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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高校の友達とずっとアホみたいに仲良くしてる。仲良くしてもらってる。軽く10年ぐらい経ってるわけ。人間形成にめちゃくちゃ影響されてるわけよ。で、みんなが集まってわいわい話してると、ふと昔好きだった人の話にもなったりするのだおじさんだ。


「きゅんって、何の音ですか?」ってカルピスのコピーが昔ありました。100周年イヤーなんですって今年カルピス青春の味。男は昔の恋人を「忘れない」のではない。男は昔の恋人で「できている」のだ。って燃え殻さんは言ってた。自分史を振り返るとき、時々の経験と感情が自分を作ってくれてるのだとしたら、もうこれは避けては通れない気がするからちゃんと書いておこうと思う。別に死ぬ気もないし余命80年だと思って生きてるけど、書かなきゃ死ねないことがある。今の僕はあの頃のあの子からもらったきゅんでできている。2人には、2人しかわからない理由で笑ったり喜んだり泣いたり照れたりすればいい。初めての彼女が最強だった話。


高校1年生の夏、初めての彼女ができた。
僕の初めてちゃんとお付き合いした人は高校の同級生なんだけど、実は中学から同じでなんなら中3クラスメイト。ところが当時はお互い何の思い出もないぐらい、話したことあったっけ?ってぐらいそれぞれの充実したジュニアハイスクールライフを送ってたわけである。ほんとを言うと僕は中学時代も話したことを覚えていて、中1の僕のBMI(体重と身長を煮たり焼いたりして算出するやつ)が16しかなく一部の学年の噂になった時に、他クラスのその子から「BMI16ってほんと?」ってつぶらな瞳で話しかけられたのが最初の会話だったんだけどまぁそれはいいとして。

んで高校入って同じ中学ってことで親近感。「クラスどんな感じ?」とか「教科書どれがいるかな?」とか連絡取り合ったりし始める中で、気づかない筈がないぐらい可愛くなってるんですその子。化粧とか一切しなくても大人っぽくなっててそりゃもうめちゃ可愛い。高校デビューの劇的ビフォーアフター。その時期廊下ですれ違うと、向こうは何の気なしに「よっ!」とか声かけてくれるのだけでわしゃ照れまくったりして。誰あの子、知り合い?うらやま!教えろよ!って友達も羨んだりしてくれるシビれるすっぱさ小っ恥ずかしさ。

当時、まだ友達の間柄。会いに行く口実の1つが彼女が持つ漫画ワンピースの貸し借りだった。感想聞かれて、大ファンである彼女のご機嫌を損ねないよう「船員たちがいい感じだね」なんて、なんだそのコメント置きに行ったりお気に入ったりしてた。

で、7月ごろだっけか、好意が溢れまくっていてもたっても居られなくなり電話で告白をしたらまさかの保留。保留!?なんでね!?けど保留ってのは振られてもない。振り向かせる努力もまた楽しい。

 

熊本ってね、熊本城の花火大会があるんですよそいつに誘ってみる。お姉ちゃんの浴衣がある、などと仰るもんですから、そりゃもう是非着て来てくれませんか?とお誘いを。当時の自分なりの精一杯「あー、けどだめだ、○○さんが浴衣を着て来てくれたら花火なんか一切目に入らなくなっちゃうな笑」みたいなメールの履歴。「まったく、どこのイタリア人よ!」って返ってくるメールも愛しい。

当日、流行ってたRIP SLYME熱帯夜聴きながらバスで向かった覚えがあって、今でも熱帯夜聴くとどきどきするのはそのせいだ。そういうのありますよね?好きな子専用のメール着信音みたいな。

待ち合わせ場所、浴衣着てるその子は熊本で一番なんじゃなかね!?ってぐらい似合ってて、しかもお姉ちゃんにやってもらったのって髪型もとっても可愛く結ってあってスターウォーズレイア姫みたいだった。僕はまぁそうだな細くてかちこちのC-3POみたいな。人混みを歩いて歩いて芝生の広間に腰掛けて、付き合ってもない保留中の2人。時間ぎりぎりに行っちゃったから場所が埋まってく中、僕らが座った位置が花火の発射位置に近かったのかな、つまり結構見上げなきゃいけない角度で首が痛くなる。見えにくいねーなんて2人で笑って。で、先に僕が芝生に寝っ転がって「これ楽でいいよ、○○さんもどう?」って言ってみたけどその辺のデリカシーのなさはずっとあるな。芝生が浴衣に付いちゃうし何よりせっかく結った髪型が芝生まみれになっちゃう。

ためらう彼女にすっと腕を貸してあげたのは我ながらグッジョブ。筋肉量が落ちてやせてる今の僕じゃ考えられないけど、当時は野球部でそれなりに力こぶもあったから少しは役立ったのでは花火見ながらの腕枕。ドッキリドッキリどんどんってこのことよ。きゅんって、何の音ですか?

 

お気に召してくれたのか帰りの坂道、人混みを腕を組んでゆっくりゆっくり歩いた。心臓が今にも飛んできそうな爆速。翌々日、朝起きたら保留の答えが返ってきてて寝起きでまた爆速。でも明け方4時ぐらいのメールに、いや、記念日が分かりにくいよって笑った。二人で花火の日に決めた。

日々のワンシーンから思い出が尽きない。

公園デートしてタンポポの綿毛をふと手にした彼女。ふーって吹くのかなぁ愛らしいなぁって思って見てたら手のひらで挟んですりすりすりって竹とんぼ飛ばすみたいに動かして、綿毛全部その辺に散った。風に運ばれるはずが全然飛んでいかず茎は折れて笑った。僕がツッコミどころが多い人が好きなのは間違いなくその子のせいだ。

思春期、調子乗って名前を呼び捨てにしてみたけど、わたしはあんたのもんじゃない!ってちゃん付けを義務付けられた。そのせいなのか、それからの人生、僕は好きな人を呼び捨てにしたことがない。男は昔の恋人を「忘れない」のではない。男は昔の恋人で「できている」のだ。

高1の僕の誕生日には自分の好きな曲を集めたベストアルバムを作ってくれた。シャッフルで聞かんでね!この順番通り聞いてね!ってお手製のコメントカードとともに。一曲目RADWIMPSふたりごと』。今からお前に何話そうかな、で始まる出だしにぴったりな曲。二曲目がいきものがかりの『コイスルオトメ』。はじめてのチュウの英語のバンドバージョンもあったりして前半は恋するゴキゲンな曲が続くのにアルバム17曲のうち終盤4曲ぐらいはなぜだか切ない曲ばっかり集めて、なんなら失恋ソングまであって嫌がらせかよ(笑)ってコメントカード見たら、"このアルバム聴いたら最後らへんに切なくなってわたしのことを思い出してほしいから"ってやりよる。そうなのだ、お気付きの通り最強なのだ。すぐにメールした。まいりましたと。

メールで言ったら、"明日朝起きたあたしをきゅんきゅんさせる一言をよろしく。ではおやすみ"っつって寝てた彼女の無茶ぶりが、その毎日が、確実に今の僕を作っている。あのとき調べた世界の名言集とか愛の言葉とか、その引き出しが今僕をクサくしてる。コピーライターの学校で働いてるのもきっと大いに影響されてる。「What to say」と「How to say」何を言うかとどう言うか。「大事だ」とか「気にかけている」を伝えなさい。ただし「愛してる」や「大好き」は使わないものとする。そんな問題をずっと解いている気がする。

そうしたメールのキャッチボールを通して、大好きって言われるより大事って言われる方が嬉しいことを知った。不意にくる"私もあなたのことが○○○。"ってメール。"当ててみて?"ってまたすぐ無茶振り。大好き?って答えたら、"だいじ、だよ。ひひひ"。っていや間違いかよ恥ずかしい。けど読むたびあとからじわじわ嬉しくなって、そんなもんで保護メールはすぐにパンパンになった。

眠たくて仕方ないけど遅い時間までラリーに付き合ってくれた日の"おやしみ"って送られてきたメールですらいとおしい。一時期気が触れたのか、彼女の小さい頃の写真待受にしてましたからね。恋は人をおかしくする幸せです幸せでした。

立田山って熊本の山、チャリ漕いで50分ぐらいかなちょっとした遠出のデートに出かけるときは"わたしおにぎり作るからあなたおかず担当ね"って普通逆じゃないですかね?ほぼ初めての料理、目玉焼きとかキャベツ千切りにしたりとか冷食からあげを散りばめていざ山ついて食べようと開ける瞬間、フタ側と間違えて全部原っぱにこぼした。申し訳なくて凹んだし彼女爆笑してるし僕も笑うしかないし。キャベツが芝生に消えたwwwって。

渋谷の109も原宿のクレープもなかったけどさ、山とか湖とかでデートできた青春はちょっとした自慢なのだよ。水の美味しい熊本で自然に湧いてる江津湖の奥へおんぶして歩いたりして、行けー!進めー!って彼女。誰も居ないところで2人腰かけてイヤホン片方ずつにしてRADWIMPS聞いてる夏の終わり。木漏れ日。水面のきらきら。

いつも坂登って送って帰った帰り道の度に買ったピュレグミもそのまま甘酸っぱい。なけなしの小遣いすらも甘酸っぱい。

 

写真写りのよろしくない彼女が一枚だけいい顔してる写真があって、文化祭で漫才してる僕を少し離れたところから見て笑ってる写真がすごく素敵なの。少し離れて、ただでさえ小さい顔がさらに小さく写ってるの。僕が一回も勝てなかったあのニコって笑顔してるの。

成人式も旅行も一緒に。お互い東京に出てきて、誕生日にもらったCDは6枚を重ねる。結婚の話もしてたけど、当時なりに本気だったと思うのよ。

 

付き合って7年目、別れるときは別れる。お台場の海を見ながら"もう好きじゃないんだよねぇ"って困ったように言われてちゃんと振られた。困ったのは僕の方なのに有無を言わさず完敗。僕も至らぬ点が多々あったと自覚している。2人には、2人しかわからない理由で笑ったり喜んだり泣いたり照れたりすればいい。

もうこれ誰とも付き合えねぇんじゃねぇかって本気で思ってたけど、ちゃんと振ってくれたからちゃんと次に進めたよって今でも少し強がってみる。

 

交わった直線が通り過ぎていっても時々現れてくるのはもうちょっとした魔性。社会人になってからもたまのたまに、「仕事でミスして凹んでるから、あんたの失敗談よこせ」って変わらない無茶振りに笑う。必死で頭回して「東大出身の会社の後輩が僕の話だけメモ取らない!」って返したり。

人って変わらないと思ってて、上手くいかなかった2人は上手くいかなかった理由が変わらないから縒りを戻してもきっと上手くはいかないんだけど、その人を好きになった理由もその人自身も変わらないから、あーこの部分が好きだったなーって懐かしくなることがある。気づいてるか分からないけど君の好きなところを、僕は大好きだったっぽいです。

 

 

 

 

いまでもたまに話すと毎回コテンパンにやられる。どこまでも好きになれることとか、あなたは私の青春そのものとか、おかげで素晴らしい青春でした!って胸張って言えるから、10年前の僕へ全力で大事にしなさいよ。結婚もしないし、君は振られるんだけど、大好きになって然るべき、大事にして余りあるような人だ。ちょっぴり変で、純粋で育ちが良くて楽しい人で、どうも僕には優しくはないんだけど笑顔が素敵すぎる人だよ。例えば付き合って半年後ぐらいに「わたしあなたと付き合ってから周りに可愛くなったねーって言われるようになったよ!あなたのおかげかな?」って言ってもらえるから、そういうボーナスポイントに都度胸張っていいからさ。

 

大人になって、気まずくないの?と聞いてくれる高校の同級生の優しさ。心配ご無用、上記の理由で今じゃ感謝しかない。唯一、嫉妬するとしたらあの子面白すぎません?なんなん、一生敵わんし、叶わんし、最強。

高校の同級生で10年経ってみて果たして一番可愛かったのは誰なのかってアホランキングも、ほしかわ票は迷わずその子へ。1人10票持ちでも10票全部投票するぐらい特別賞の殿堂入り。胸キュン部門1位、変な人部門1位、面白い人部門2位の僕に大差をつけて堂々の第1位。最強。僕が昔付き合ってた人、最強。

 

千原ジュニア師匠『あながち、便所は宇宙である。』の中にこんな話がある。実は『笑』という漢字は解釈を間違えたまま中国から伝わっている、と。人が笑うのに、なぜ竹冠なのか、と言われて確かにそうだ。実は本来『笑』は「咲く」という意味であり、では『咲』こそ口偏がついてますから「笑う」という意味であるらしい。好きになった人の漢字っていつまでも破壊力がありますよね。

 

余計なお世話ですけど、幸せでいてほしい人がいまして、その人にはいつ何時もずっと大爆咲をしててほしいな、と思ってます。

おしまい。