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心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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偏差値に囲まれ、社会道徳に括られ、日付が変わる前には寝て日が昇る頃にはきちんと起きる。風呂に1日入らないと床に臥す。歯を1日磨かないと医者にかかる。電気をつけっぱなしで寝ると莫大な費用を請求される。そう、思い込む。

保健の教科書の言うことは絶対で、酒を飲むと脳が縮み、煙草を吸うと肺が黒焦げになる。周りにいないこともなかったけど、恐ろしいくらい末恐ろしくて、1回も手を出さなかった。悪への憧れは微塵もなかった。

そんな風に、自覚はなくても、温室の真綿の中で育った。敷かれたレールを走っていたら、真人間が出来上がっていた。


高3の2月。受験期。ベネッセの「攻」のCM。YUIが歌う夢じゃないやいや。
九州から出てきて親戚従兄弟ん家を泊り歩いて挑んだ、そのたった1週間を僕はなんでだかずっと覚えている。

前乗りして高田馬場、ホテルに泊まる。さすがにペイカードを買う勇気はなく、快く過ごす。最後の参考書を読む。私服の受験生が多いだけで、びびってしまう田舎の制服坊主。あっという間に終わる初日。

日が暮れた新宿南口。従兄弟のケン君に迎えに来てもらう。これから2泊、ケン君の家で過ごす。男3兄弟の末っ子ケン君は優しくて面白くて歳も近くて小さい頃から大好きで。けどちゃんと会うのは4年ぶり?ダイガクセイのケン君の家は初めてだった。


生まれて初めての京王線。見たこともない駅の波、人の頭に東京を感じる。最寄り駅から車に乗り込む。喫煙者の車、煙草の匂いに染まってく。
思えば初めて足を踏み入れる大学生の家だ。灰皿代わりのチューハイの空き缶、付けっ放しのパソコン、テレビのない部屋。帰ってきたらまずテレビを付ける家で育ったので、テレビが無いって何が楽しくて生きてるんだ?ってなった。実際のちに大学生になり、どんどんテレビは見なくなるんだけど。
「うんこしたくなった時誰かお風呂入ってたらいやじゃん」ってユニットバスはやめたほうがいいぞって笑ってケン君は言うそれでも、実家の有り難みに気づく狭くて浸かれない浴槽。

翌日は試験日ではなかったので夜いつもなら寝る準備を始める時間に連れ出してもらう。軽音やってるケン君の仲間の家を案内してもらう。完全に悪になった気分。煙草の匂い。

「好きなのかけていいよ」って助手席の僕にiPodを渡してくれたんだけど、それまで僕が聞いてたいきものがかりとかEXILEとかは1曲も入ってなくて戸惑った。アルファベットのページが長い長い。聞いたことないバンドの名前が続く。唯一知ってたエルトンジョンをかける。「渋いな」って笑われる。

車中の会話も、耳に新しすぎて酔う。アイツ酒飲んで暴れて居酒屋の壁に穴開けちゃってさ、警察連れてかれて超笑った。だの、アイツんち、姿見あんだけど酔っ払って帰って朝目が覚めたらなんか持って帰ってきてたらしい、だの。
「ヤバイですね」って、僕はいつの間にか敬語を使ってた。

一人暮らしの家をいくつか見せてもらったのはありがたかった。部屋のライト、家具の色、指輪とかネックレスとかピアスとかじゃらじゃらするのは似合わないんだけど、そういう人の黒で統一された部屋は、なるほどお洒落だったやらないけど。
おっしゃ一杯飲んでくかって言われて身構えたのが伝わったのか「いやいや、高校生高校生」って助けてくれた。

耳すまって知ってる?あの舞台ってこの辺なんだよ」ってケン君は案内してくれた。すでに日付をまたいでいた。
坂道をひたすら登っていく。彼女から聞いていた耳すまのキュンキュンと、煙草の匂いに染まった中古の外車の助手席から眺める舞台はとても同じ作品とは思えず、違和感と、好奇心と、不安と何て言っていいか分からなかった。神社で、ひとまず、お参りした。受かりますように。ちゃんと、ちゃんとした、大学生になれますように。

帰り道、ドラムを担当してるらしいケン君が1曲1曲ドラムパートを弾きながら指でハンドルを叩いてる。大学から始めたドラムも基本は耳コピらしい。「エモい」って言葉を教えてもらった。何のバンドだったかガールズロックで「このバンド、ドラムすげぇブスなんだけど巨乳なんだよ」ってケン君に教えてもらった情報も、あまりに接点がなく、一度聞いただけのことは忘れてく。でも、2曲だけずっと今でもずっと心に引っかかってる曲がある。

pegmap『渦』

www.youtube.com

チャットモンチー『染まるよ』

「小学生でも思いつきそうな最初のギターの始まりエモい」って教えてもらう。

www.youtube.com

親以外、歳の近い人の助手席に乗る不安と、まだ初日が終わっただけでこれから1週間試験が続いてく将来をかけた不安。煙草の匂い。東京って人が多いな、だけじゃない。関わったことない色んな人が山ほどいて、警察に連れてかれることを笑えるオトナがいる。

 

翌日、バイトに出かけるケン君を見送って、1人ニコ動でpegmapをかける。youtube以外の動画サイトもそれまでは知らなかったし、コメントが流れてくるの1つ、衝撃。多摩川沿いを気分転換に散歩してみる、あの夕焼け。

たった1週間だけなんだけど、人生が変わった1週間と言ってもいいかもしれない。別にそこからバンドを始めたわけでもなく、煙草を吸い始めたわけでも、親に反抗しだしたわけでもないんだけど。景色、匂い、そしてこの2曲。それ以来、2月のテーマ曲はずっとこれで。今年も2月がやってきた。春を待つ不安はまだ消えそうにない。でも、そういった感情がひっそり眠る自分の暗さの受け皿になっていると思う。ネアカではあるんだけど最もネクラに近いネアカだと思っていて、それってネクラにも入れてもらえず、ネアカからはがっかりされ、居場所のなさを突き付けられる。そんな瞬間が実はけっこうある。

 

ケン君ちの2泊以降のホテル泊はペイチャンネルも買ってみた。親戚んちではスラムダンク完全版を読み漁っちゃった。その結果、当然なんだけど初日の試験以外の3つは全部落ちた。

なんなら初日の試験ですら、補欠合格だった。