シーン1 新橋のうどん屋。サラリーマン2人の会話。
「人って変わると思いますか?人って変わらないと思いますか?」
「うーんどうだろうね。なんで?」
「なんで?いや、うちの部長がよく言うじゃないですか。お前本当変わらないな、お前本当変わらないなって」
「それはお前がいつまでも同じミスしてるからだろ。毎回資料読まずにお客さんに話しちゃうからだろ?いい加減同じミスするなよってことだよ」
「それもありますけど」
「けどじゃない」
「ぐぅ。ただ、人って本当に変わらないんですかね?」
「まだ言うのかよ」
「思うんですよ、これだけ世の中の価値観が変わったじゃないですか?」
「変わったね」
「ほら!変わりましたよね?世の中の価値観を作ってるのは誰ですか?僕ら一人一人ですよね?」
「なんか、お前、きついな。うどん食えいいからうどん」
「(フーフー)いや、僕はね(フーフー)ずっと思ってたんですよ(フーフー)常識とは十八歳までに(フーフー)身につけた偏見のコレクションのことをいう(フーフー)ってアインシュタインが言ったらしいじゃないです(フーフー)」
「もう冷めてるよ!どんだけ猫舌なんだよ、冷たいのにしておけよ」
「か?」
「どこでフーフー挟んでるんだよ!なんて?」
「(ズルズル)いやね、変わっていかなくちゃなと思うんです。うどん美味いすね」
「そらそうだよ、うちが出してるお菓子だって5年前に社長変わってCM止めてからきれいに右肩下がりだろ?あれ、これ人の話?会社の話?」
「どっちもです。だって会社って誰が作ってます?人でしょ?(七味を入れる)」
「うるせぇな、分かったよ、それ貸して」
「あ、それあんま入ってないですよ。すません七味お先」
「そういうとこあるよなホント」
「で、例えば森永さんが出されてるラムネとかチョコボールのキョロちゃんとか大きくなってヒットしたじゃないですか。昔からある商品でもああやって生まれ変わるんだなって。これって消費者が変わったからですよね?」
「そりゃそうだよ、あれでしょ?なんかお前みたいな若者が飲み会前にラムネ食べるらしいね。糖が二日酔いになりにくくなる!って」
「そうなんですよねー。やっぱり変わっていってる」
「外に出られない。人に会えない。マスクつけなきゃいけない。とかね」
「ですよね(箸でうどんを持ち上げる)、外に出られないから通販や出前サービスが増える。リモートワークが進んでオフィス不要論が出てくる。コミュニケーションの総量が減るからますます人を動かす言葉が重要になる。」
「分かったけど伸びるぞ」
「もう伸びてます」
「なんだお前はホント」
「人は変わらない。時代は変わる。時代が変わるのに人が変わらないなんてことあります!?」
「うーん(ズルズル)」
「これだけ世の中の価値観が変わると、新しい欲求が次々に生まれてくる。新しい生活様式なんて言葉にはうんざりしますが、ニーズを先回りして新しい商品を作ったりしないと生き残れないですよね。以上です」
「ごめん、後半あんま聞いてなかった」
「ちょ、もう~」
「昔あったのよ、ウイスキーの広告でさ『時代なんかパッと変わる』ってコピーがあってさ。令和おじさんの時もそう思ったけど、今回もなかなかそう思うよな。あとさこれはたしかパルコかどこかの広告なんだけど『ナイフで切ったように夏が終わる。』ってあって、今の季節毎年思い出しちゃうんだよね~わかる?」
「すません、前半からあまり聞いてませんでした」
「ちょ、もう~」
「へへへ」
「へへへ、よし、大将お勘定!」
「やめてくださいよ、券売機で払ったじゃないですか!」
「へへへ」
シーン2 その日の夕方、休憩室にて
「おいおい、聞いたぞ。お前あの後人事に話にいったんだって?」
「そうなんですよ、ちょっと居ても立っても居られなくなっちゃって」
「すごいな、はいこれ缶コーヒー、熱いかもだけど」
「あ、ジョージア。僕今クラフトボス飲んでます(見せる)」
「出た、それ流行ってるよね」
「面白いですよね、同じコーヒーでもジョージアは山田孝之が働く男を応援してるのに、クラフトボスは堺雅人が緩く微笑んで働き方を変えていこうって言ってるんですからね。同じコーヒーなのに」
「これも変わってく価値観ってやつだな」
「お好きですか?」
「好き好き。好きなんだけど、俺そのグレーのやつ飲むと毎回お腹痛くなっちゃうの。毎回お腹痛くなっちゃうのに、なぜか買っちゃうんだよな。人って変わらないよな」
「それは学習能力が0なだけですよ」
「うるせぇな。で、お前人事に何しにいったの?」
「僕が話したのは2つです。1つ、会社は人の集合体である。中の人が創意工夫を働かせて面白く働くことで、面白いお菓子が生まれて世の中に出ていく。中の人、つまり社員一人一人が本当に自らの意志で働いているか?気力が充実しているか?朝起きて会社行くのだるいな~と思っていないか?そういうチェックシートを導入しましょうってのが1つ」
「お前、、、やっぱ、きついな。や、きついっていうか独特だな」
「もう1つ、うちの採用基準って毎年どう変わってきてるかを教えてもらいたくて。中の人の人柄が何かに影響してるんじゃないかって」
「へーどうだった?」
「なんか代ごとにあるらしいんですよ方針が。先輩は確か2007年入社でしたっけ?」
「そうだね、今14年目かな」
「たしかその代は『Don't think! Feel.』世代」
「あーなんか聞いたことあるな。まず動くやつを多めに採ったっていう。要は座って話聞いてられない人間の集まり」
「北陸に支社出して新潟のせんべいメーカーと統合した経営企画室の方も先輩の代ですよね」
「そうそう、昔よく合コン行ったね。行動力は新人の頃からすごかった」
「で、僕は2015年入社なんですけどこれ何の代だと思います?」
「え?なんだったっけ、社内報で毎年見るようにはしてるんだけど」
「『I have a dream』世代。」
「あー、キング牧師だ」
「てかなんなんですかね、この英語の名言で方針決める文化。せめて『Change』とかが良かったですよ同じ黒人でもオバマさんみたいな。いまさらキングて」
「おれら、燃えよドラゴンだぞ」
「それもきついっすね笑。思い出しましたよ、入社試験、やたら夢はありますか?って聞かれて」
「お前はなんて言ったの?」
「アンパンマンです」
「は?」
「自分の身を削っても腹が減ってる人を助けたいなって。お菓子ってもらって嬉しくない人、基本いないじゃないですか。自分の労働力を提供して対価を得るんだとしたら、与えられる仕事がしたいですし、与えて喜んでもらえたらそれが一番だなって」
「へーいいじゃん」
「あれ知ってます?藤井風」
「かぜ?知らない」
「シンガーソングライターって言うのかな、アーティストなんですけどね最近ずっとyoutubeで聞いてて。この『帰ろう』って曲がめちゃくちゃいいんですよ。これこれ、流していいですか」
「(聞き終わって)いいね」
「でしょ?この藤井君が言ってるんです、幸せに死ぬためにどう生きたらいいの?って。こいつなんてのは中学くらいからずっと動画を上げ続けてるんですピアノの弾き語りの。つまり、与えるかもらうかで言ったら、与え続けてる側なんですよ」
「ふーん」
「すべて与えて帰ろう。何も持たずに帰ろう。与えられるものこそ、与えられたもの。ありがとうって胸を張ろう。ですよ」
「わかったわかった」
「昼話したじゃないですか、人って変わるか変わらないかって。変わっていく消費者のニーズに、与えられてない自分が情けなくて情けなくて」
「お前、、泣かなくてもいいだろ」
「もう、、顔が濡れて力が出ないですよ」
「うるせぇよ」
「へへへ」
「へへへ」
「お先、失礼します」
「おう、また明日」
「あ、最後に1つ教えてください」
「なに?」
「先輩の命は、今、燃えてますか?」
「、、、」
「お疲れ様です。お先です」
「、おつかれ」
(考えたことのない話。最後の「お先」は失礼しますというより、お先に進みますからね、行かせていただきますねとすら感じる。握ってる缶コーヒーがぬるくなっている。)