心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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2013-05-15 00:58:58 

 

「はい、じゃ宿題の読書感想文の発表をしてもらおうかな」

 

「えーやべーどうしよう」

「私はちゃんとやったわよ」

「ぶー」

「ぶー」

「おい、鼻野家の双子!ぶーぶー言うんじゃないよ。本当にぶーぶー言う奴があるか、後で職員室に来い!」

「ざわざわざわざわ」

「ザワ山、お前も全くの同罪だ!」

「げらげらげら」

「ゲラ山もか、なんだこのクラスは俺をなめてるのか」

「先生、ゲラ山君はいつもこういう笑い方なんです」

「そうか、すまなかった」

 

「はい、気を取り直して続けるぞ。課題図書はこの『~0代にしておきたい17のこと』シリーズでお馴染みの作者の『就職する前にしておきたい17のこと』だったな。では一人ずつ発表してもらおう。廊下側一番前起立、では順々に」

 

「挿絵がなかった」

「文字が読めた」

「食べられなかった」

 

「なんとも言いがたいですね。というのも超有名な作者さんということで期待をしていたのですが、内容に新鮮味がない。自己啓発の類の限界を見たというか。あれしろ、これしろっていう方法論が、ちょっと自己啓発とかに詳しい人からしたらもう何万遍も聞いたような内容で物足りないなぁと思いました。新しい収穫は無いですね」

 

「文章として読めないことはないのですが、『プレゼント袋を抱えたサンタクロースがドアの前でベルを鳴らしているのに、君は強盗だと思ってドアを開けないのかい?』みたいなちょっとした例えがなんかアメリカンジョークみたいでサブくて読んでて楽しくなかったです」

 

「おそらくですけど、この作者が書いた本は全部内容が似ているんだろうなぁと思いました。よほど画期的な、しておきたいこと、が期待できない限り読む価値はないかなと」

 

「まぁまぁ、君らの感想だから先生は何も言う気はないが、一冊だけを読んでその作家を批判することはもったいないぞ」

 

「はぁそうですか。しかし今回こうした形式を取るのも、批判をしてみる練習だと自分は思っているのですが。今の若いものは自分の意見を持たない、とよく言われます。また、意見の判断基準ですら持っていないと。だから、今回こういう形で発表させるのではないでしょうか。確かに私は文学に詳しくないので、文体や表現のテクニックでは批判はできません。でもちょっとした専門知識がなければ批判ができない、というのは違うのかなと。」

 

「確かになー。そこらへんは先生も悩んでいるんだ。知識がなくても感じたことは正しいはず。自分の感覚に正直になることはまずは大切だ。その上で、知っておいて欲しいのは、知識があると言葉に裏づけができる、すなわち信頼性や説得力が増すということだ。さらに、知識があると色々な見方ができるようになって、極端な話、楽しいのよ。考えてもみてごらん、大した知識もない人がいくらわめいても中身がないだろう。意見を持つという一歩目と、これから、モノを知っていく、知識を蓄えていく意味を、今回はみんなに知ってほしいんだ。いいかい?」

 

「シーン」

 

「おいシーン山!!!」

 

「先生、こういう場面だと、色々ベタなキャラやシチュエーション、あるあるボケが浮かんできてしんどいっすよ」

 

「確かに、ブレイン山の言う通りだな、もうよそう二度としないわ」

 

 

心頭滅却すれば火もまたスズシ。