心頭滅却すれば火もまたスズシ

わるあがきはじめました。

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このSNS時代、「好きなものは発信していったほうがいい、仲間を増やすから」という論調をよく見かける。もっと言うと「やりたいことだけやりなさい」とか行き過ぎると「やりたいことがない人って人生大丈夫?」みたいな理屈まで目にすることがあってうげげ。そんな時「やりたいことあるやつはとっくに会社でもなんでも起こしてるよ」ってサラリーマンとはなんぞやを教えてくれた上司は、ある種の救いだったりするんだけど、好きなことだってそう、嫌いなことや嫌なことをやってみて初めて分かることがあって一応4年社会人をやってみたテゴタエ、こんな時頬が緩むなとか、こんな時心が滾るなとか、丁寧に自分が分かっていく気がする。

とは言え、もっともっともっとも好きなことが分かる方法は、かけてる時間を洗い出してみるといい。1日のうち、あるいはその集合体今までで、何に時間を費やしているか費やしてきたか。かたや僕が野球をしてきた時間、同じだけ君が新体操をしていたのならすれ違いなんてない方がおかしいし、僕の土曜の過ごし方が君の土曜の過ごし方と違うのだって当たり前。いつ会える?ではまた来世!なんてこと結構ある。だからこそ一緒に過ごせる時間って貴重だし、一緒にいたいっていう意志もかけがえないし、タイミングってのも運ゲーのくせにとても大事。全然会えてなかったとき「わたしはあなたといる時、基本くっついてたいって思ってることを忘れるなかれ!」って前に言われたことがあるんだけど、とても愛おしい注意だなって肝に銘じるとする。

で、ロマンチックなポエマー登場の流れを遮って申し訳ないんだが、今まで自分が結構な時間を費やしてきたものってなんだろうって考え出すとけっこうすぐに答えが出る。

それがまぁ、その、AV鑑賞かもしれません。大抵の男子の嫌いな現在完了はThis video has been deleted.である。

 

最近結婚されたよゐこ濱口優氏が昔めちゃイケで自らを”トップシコリート”と称していた。ミスチル桜井さんだって”ミスターマイセルフ”と歌ってる(いやこれはそういうことではないと思うけど)。たいていみんなそれぞれのシコリ―ト像がある。これを聞く飲み会が楽しい。

「小さくした画面4つをデスクトップに並べて、どれも1番いいシーンの5分前から再生する」っていう高校の友人まえぶのトップシコリートっぷりにめちゃくちゃ笑った。聞いて想像したらめちゃくちゃ興奮しちゃって「うおおい!贅沢すぎるな!!」って思わず超バカみたいなツッコミしちゃった。音の聞き分けだけどうやるのかしら。

僕は僕で18で一人暮らし始めてすぐ、ネット環境を手にしたばかりの頃はあまりの自由さに怖くなっちゃって制約しないとやばいぞってまずきつめのジーンズをはいてAVを見始めて、その締め付けに打ち勝つぐらい興奮しておへその方を向いたらミスターマイセルフしてもよいってルールを課していたこともある。結局ジーンズがあまりに堅くて最後らへんは一瞬腰浮かせて右手でスソソっておへそ側に持ってくるようなこともあったな、超バカ。エロがネットを発展させて、ネットがエロを発展させたってのに、僕らは思春期からなんの進化発展もなくずっと超バカ。

 

何がそこまで好きなのか。

1つは、時に馬鹿馬鹿しいほどの創造性と想像性。先輩と飲んだ帰り道、ふらっと入ってみたAV屋さんでたまたま見つけた衝撃のタイトル『おっぱいが3つある女の子』。特殊メイクで胸の真ん中にもう1つおっぱいを作って「悩みがあるんです、、」から始まるそのAVを先輩は500円で買ってた。笑いが止まんなかったわって後日感想を教えてくれた。飽くなきエロへの探求心を前に、僕らは笑っちゃうことがある。時代遅れにならないよう皆さんの不快感に気を付けながらも、エピソードトークの1つでよくこの話をしちゃう。「知ってる?おっぱいが3つある女の子ってAVがあってさ」って。

そういや、TSUTAYAののれんの少し前(いや奥にしまっといてよと思うんだけど)「ごくせん」をもじった「しごくせんせい」とか「ポンキッキ―」をもじった「ボッキッキー」みたいなクソしょうもないタイトルの数々に小学生の頃からヘラヘラさせられてきたもんな。大人だってめちゃバカじゃんすげぇや!って、そのアイデアに興奮した覚えがある。

 

2つ目の理由としては変な話、感謝とか尊敬とかもあると思う。例えばメディアプランナーの指南役さんがこんなことを言っている。

グラビアアイドルに通ずる文字通り裸一貫の勝負。風呂入って2Dみたいな貧相な胸板を見て、自分が女の子だったらこれに抱かれたくはねぇだろなと思ったりするから余計にプロってすごいなありがたいな。

『震災風俗嬢』というノンフィクション本をご存知だろうか。東日本大震災からわずか一週間後に営業を再開させた風俗店があった。被災地の風俗嬢を五年にわたり取材した渾身のノンフィクションである。

【本文より】

チャコさん(仮名)が相手にした客のほとんどが、地震津波の被害に遭っていたという。「家を流されたり、仕事を失ったり。それでこれから関東に出稼ぎに行くという人もいました。あと、家族を亡くしたという人もいましたね」「えっ、そんな状況で風俗に?」思わず声に出していた。だが彼女は表情を変えずに続ける。「そんな場合じゃないことは、本人もわかっていたと思いますよ。ただ、その人は『どうしていいかわからない。人肌に触れないと正気でいられない』って話してました」。

 

風俗とAVはまた少し違うかもしれないけど、この話を読むといつも胸の奥がきゅーっとなる。そりゃ、分かんないよAVに出る女の子の気持ちは。そんなのほとんどお金儲けのためだと思うしさ。推し量りこそするものの一生分かんないと思う。知らない方がいいこともある。ただただ、自分にはできないなって時点で毎回そこで思考を止めて、もう無条件に尊敬している。尊敬することにする。

奇跡みたいに綺麗な人が、普通は大切な人だけに見せる姿を、僕らに見せてくれていること自体、奇跡続きもいいところなんだ。

 

実は昔、後輩がAVに出た。正確に言うと、出てたことを後から知った。

僕んちでみんなで飲むような愛嬌たっぷりの女の子だった。酔っ払った人を介抱したり僕ら先輩を立ててくれたり超いいやつ。覚えてる思い出は、ウケるかなって彼女のマフラーを手ぬぐいみたいに股下を通して前後に動かしてみたら周りの友達は笑ってくれたんだけど本人は怒り心頭もう要らないです!って言われて、こりゃすまないことをしたって5000円で買い取ったことがある。そしたら、元値より高く売れましたなんて笑ってくれたっけ。よく笑う、かわいい妹分ってやつ。

彼女の学生時代を多少近くで見てきたと思うけど、何が理由かは分からない。誰にも分からない。下人の行方は誰も知らない。柳楽優弥の誰も知らない。僕が知ったのも卒業してから、3年前のこの時期、かけさん知ってます?って別の後輩に教えてもらって居酒屋で数人で見て動揺したり興奮したりしたけど、あとから本当に悲しくなって胸がきゅーっとなって泣いた。泣いた。泣いて、ぬいた。数作品出ていた。芸名が2つあった。トップシコリ―トの目にも涙。後にも先にもあんなに感情がぐちゃぐちゃになったのは初めてかもしれない。別に好んで見ないし、見たくもないけど、NTRが好きな人の気持ちは少しだけ、分からなくはない。

この世は無常で世間は冷たく、あんなに愛嬌たっぷりだった後輩が「ちょいブス系」に括られていた。いや、この子の気配りとか笑顔とか何も知らないくせにさって腹立たしくなったけど、僕らだって何も知らないかもしれない。お金に困ってたのかもしれない。好奇心が人よりちょっぴり旺盛だったのかもしれない。相談してほしかったなんて言うは易し、僕らには永遠に分からない。知らない方がいいこともある。知らない方がいいことが時々多すぎる。

卒業後OB飲み会に声かけてみたこともあるけど、ごめんなさい~いけません(>_<)みたいな返事が返ってきて、あぁきっともう本当に会うことはないかもなと気づく。いつ会える?ではまた来世!なんてことがざらにある。

 

時間が経っていつかもし会えたなら何話そう。我慢しようとしても我慢できる自信なんてまるでなくて、最近どう?やっぱり三上悠亜って整形かな?とかAVの話を、全然自然じゃないのに、自然にしちゃうと思うんだ。知ってる?おっぱいが3つある女の子ってAVがあってさ、もう超バカじゃない?とかって会いたいな話したいな。なんでもいいから笑ってくれたらいいな。やっぱり僕ちょっと泣いちゃうかもな。

彼女がAVに出てたことを知った夜はたしか雨で、いつもはPCにイヤホン差して聞いてるんだけど、その夜は雨の音にまぎれてイヤホンを外して鑑賞したんだっけ。

梅雨が来ると思いだしちゃう、雨と涙とAVのお話。