密度と、食い応え。
人間、悲しいかなこの人からもう新しく得るものはないな、底が見えたなってどちらかが思ったら、関係が終わるようにできているらしい。どちらが悪いってワケじゃなく。「長く続いた恋が終わるのは、お気に入りだった服でもサイズが合わなくなってもう着られなくなることと似てるのさ」って、学生時代の彼女からもらった本の中、確か糸井重里さんが言っていた。どちらが悪いってワケじゃなく。
だからこそ最近考える「密度と食い応え」。一緒に過ごす時間のその密度と、目と耳から入ってくる情報のその食い応えを少しでも高めて提供していきたい。飽きられたくないし、変わらずいるために変わり続けていたい。
人間、悲しいかな無いものに憧れる。現実の僕は、物事の本質を気にせず表層だけに関心がいく奴だからって、上司からこないだ「サーフェス」ってあだ名を付けられたの笑っちゃったな。よく見てくれてるなと、いっそもう感謝する域だ、意気だ。今、思い出したけど学生時代、お笑いサークルの先輩漫才コンビで「へー、そんな側面もあんのね」「いや正面だわ正面!」っていう好きなくだりがあって、これいつかどこかの飲み会でかませないかなって狙ってたりする。
最近思うに日常のどの場面にも「ひょうきん」が少し足りていない気がしていて、ひょっとしてこれは神から与えられた自分の役目なのではって思ってる。すれ違いざまの2,3ラリーでちゃんとクスクスってなるような。LINEなんかはほんと命がけ、返信のスピードも求められる。千原ジュニアが言う、エレベーターで何階を押されるか分からないけど何階だろうが難解だろうがきちっとオチまで持っていく大人力みたいな。そう、密度と食い応え。
コーコクギョーカイの末端にいて思うに、密度と食い応えを磨くための近道は、ボディコピーを書けるようになることだと思ってる。とにもかくにも広告が見られないどころか嫌われてるようなこの時代、言ったら、最後まで読んでくれた人へのサービス精神だけで筆を走らせているものがボディな気がする。とはいえあなどるなかれ。強豪校はキャッチボールを見るだけで実力が分かるようなもん。ボディコピーを書かせりゃその人の実力が丸わかり。ゆえに、名作と言われるボディコピーも数多く。
女子中学生が黒板に好きな歌詞(バンプとかラッドとか)を書くように、男子会社員がブログに好きなボディコピーを書く。
キャッチフレーズの受け皿でもあり、より鮮明で心地よい読後感が求められるし、与えられる。さらには食い応え。ボディコピーの中にいいコピーが3つ入ってるくらいを目指すべきだということらしい。特に最近のものからチョイとチョイス。
①ライオン 企業広告 「今日を愛する。」
「今日を愛する。」に込めた想い|「今日を愛する。」ツナガルサイト
今日を愛する。がキャッチフレーズでその上の24行がボディコピーだ。
僕がライオン社員だとしたらこれ嬉しくて泣いてると思う。自分たちの存在価値とか意義とか使命とか、「なぜなら、そこにライオンがいるからです。」を読むたびいつも僕は心が震える。
②トンボ鉛筆 企業広告 「ロケットも、文房具から生まれた。」
文房具といっしょにいる時、人はとてもいい顔をしている。
つくづく、そう思うことがあります。
書く。ひたすら書く。机に向かうその清潔なまなざし。
手を休める。思いをめぐらす。
遠くを見つめるそのやわらかなまなざし。
考えている。苦しんでいる。迷っている。もがいている。でも、
まちがいなく前へ進もうとしている。
思えば、文房具は、人間のそんな素顔を、
なんと長い時間見つめてきたことでしょうか。
幸福な仕事。
自分たちの仕事を思う時、私たちトンボは決まってこの言葉に行きあたります。
なぜなら、私たちのそばには、いつも頭と心をいっしょうけんめいに使う人がいて、
その人の手から、必ずひとつ、この世になかった新しい何かが生み出されている。
そう思うたび、誇らしさに胸がいっぱいになります。
傷つきやすく、たくましい。弱くて、かしこくて、とほうもなくあたたかい。
そんな人間が、一番人間らしくあろうとする時に必要なもの。
トンボは、これから先も、ずっと人間のそばで暮らしたいと願っています。
トンボが動いている。
人が、何かを生み出している。
キャッチで心を掴んで、最後の「トンボが動いている。人が、何かを生み出している。」の押さえまで完璧。最後まで読ませて、これでもかと食い応え。
岩崎俊一さん、岡本欣也さんという僕が大好きなコピーライターのレジェンド達の作品です。
企業広告「ロケットも、文房具から生まれた。」第14回中日新聞広告賞部門賞を受賞。 | 株式会社 トンボ鉛筆
③日本精工 企業広告 「マサツ」
生まれて→成長して→壁にぶつかって→へこんで→なんとか乗り越えて→
少しだけ強くなって→世界が広がったように思って→新しい悩みができて→人を傷つけて→
傷ついて→結局ひとりなんだと思って→なのにまわりに助けられて→社会に出て→
たくさん期待して→ハードルは高くって→無力だなと思って→なんだか嫌になって→
あきらめようとして→あきらめられなくて→開き直って→よしもう一度→
イケ マサツ ヲ オソレズニ→
機械の摩擦を減らす会社として。NSK
これもまたいい。残念ながら企業の広告アーカイブサイトは閉じてしまったけどもぜひ画像検索をしてほしい。その企業が言える一番大きい価値の真ん中を、ギリギリをキリキリと考え詰めた様子が伝わってくる。
あれ。これ。
今流行りのいわゆるキュレーションをしようとして、「俺の目」みたいにしたかったけどとてもムリだ。お気に入りが多すぎる。寝られない。
日本ペットフードの「死ぬのが恐いから飼わないなんて、言わないで欲しい。」も好きだし、ホンダの「負けるもんか」も最高。就活してた当時、この広告作った企業の説明会で聞いた時、すすす、すげぇやってなったのを今でも覚えている。
調べたらホンダはお客様相談センターにちゃんと掲載していて、素敵な企業姿勢だと思う。
朝が来てしまいそうなので次で最後にしようと思う。
④明電舎 企業広告 「電気よ、動詞になれ。」
http://www.meidensha.co.jp/knowledge/know_03/media/__icsFiles/afieldfile/2017/12/21/171218_01.pdf
この冬から日経新聞を電子版に切り替えた。15段広告をフルサイズで見られないことだけが残念だ。まずキャッチがいい。一見意味がわからない。確実にキャッチされる。それだけで勝ち。そんでボディコピー読む。これが素晴らしく良い。BtoB企業の宿命「一般人に伝わらない」をよくここまで実感とユーモアを持って突破してる。言葉だけだけど、伝わる。
近々始まる内定者向けの研修で、有難いことに1,2コマ持たせてもらってる。
「ほら、コーコクってさ。文化を作ってくもんじゃん」なんて、人から聞いた話を恥ずかしげもなくさらっと言えちゃうあたり、まじかよこいつ本当サーフェスだなって恥ずかしくなったりもするけど、
ぎゅっとつまった密度と次々に来る食い応えで、
楽しい仕事を、楽しく伝えられたらいいなと思う。引き出し〜